世の中に失望した不良少女神楽さきが、闇の中から一筋の光を見つける感動ストーリーです。
世の中に失望した不良少女神楽さきが、闇の中から一筋の光を見つける感動ストーリーです。
あれから月日が経って、私はあっという間に34歳になってしまった。
もう若かったころの面影はない・・・と言いたいところだけど実は中身はそんなに変わっていない。
話し方は少しだけ落ち着いてきたけど、口が悪いのは相変わらず。
そして、私のお店がどうなったのかと言うと、さらにメディアに取り上げられて人気に拍車がかかっている状態だ。
やはり、給食メニューと言うのは、いつになっても懐かしく恋しいもの。
最近では家族連れや、ご年配の方のお客さんが増えてきているんだ。
あの頃はこんな給食でなかったよなぁ・・・とか言いながら食べているお客さんもいれば、あの当時好きなメニューがあってここへ食べに来たというお客さんもいる。
何歳になっても給食メニューと言うのは魅力のあるものなんだと思う。
「てんちょーさん、毎日自分で給食作って食べてるの?」
「ううん、毎日作って食べてないよ?
食べたいなぁと思った時にだけ、作って食べたりしてるんだ」
小学生の女の子に声をかけられ、私は微笑みを浮かべた。
毎日このメニューを食べてるのかと思われている様子。
そりゃあ、そうだよね。
こうして給食メニューを提供しているんだから、自分は毎日食べているんじゃないかって思われているんだろうな。
あいにくだけど、自分の為に作った事はほとんど無いんだよね。
この子はまだ小学生だから、今も昼食は給食を食べていると思う。
「私の学校はね、カレーがおいしいんだよ!
あとね、あとね、・・・あげぱんがおいしいの!」
「あげぱんが出るんだね!
あのパン、すごく美味しいよね?」
「うんっ、甘くてすごくおいしいの!」
女の子が満面の笑みを浮かべて言うから、思わず私も笑ってしまった。
その言い方からして、本当に好きなんだろうなってわかったから。
それにしても、あげぱんってまだ給食で出されているメニューだったんだ。
てっきりもうなくなってしまっていたのかと思っていたから、なんか嬉しかった。
それに、カレーが好きだと話している。
どうして学校で出される給食のカレーって、あんなに美味しく感じるんだろう。
カレーが好きだと言う人は結構多いし、私もその一人。
家庭のカレーに比べてやや黄色っぽいのが特徴的だよね。
「かーぐらセンセ!
お久しぶり~、あたしもお店手伝ってあげるよ!」
元気な声が聞こえてきて、店内の入り口を見ると、そこには・・・橋本さんの姿があった。
その瞬間、店内が急にざわつき始める。
何人もの女性たちが、橋本さんに近寄り握手を求めている。
無理もない。
だって、あれから橋本さんは女優としてデビューしたから。
通信制高校に通いながら、名の知れた劇団に通ってレッスンを受けていたんだと後から聞かされた。
もちろん、教えてくれたのは真城さん。
今は有名女優としてドラマや映画で多く活躍しているから、なかなか連絡が取れなくてどうしているのか心配だった。
だけど、元気そうにしている姿を見て安心した。
「ありがたいけど、女優さんに手伝わせるわけにはいかないよ」
「何言ってんの!
あたしは神楽センセがいたから、こうして女優になれたんじゃないか。
お店の手伝いくらい、させてくれたっていいじゃないか、だろ?」
「本当にありがとう、それならお言葉に甘えようかな?
この料理をあっちのテーブルにお願い!」
元気よく橋本さんが料理をテーブルへと運んでいく。
テキパキ動いてくれるから、すごく助かって嬉しい。
すると、再び店内にある人物がやってきた。
その人物にも見覚えがあって、私を見つけるなり笑顔を向けてきた。
あの笑顔は・・・もしかして。
「神楽先生、ご無沙汰しております!
私もお店を手伝いに来ちゃいました!」
「真城さん!
真城さんも忙しいのに来てくれたの?」
「当たり前じゃないですか!
神楽先生は私にとって大事な先生ですからね。
ぜひ、お手伝いさせて下さい!」
そう言って、真城さんも一緒になってお店を手伝ってくれた。
真城さんは、あれから小学校の先生になったと本人から聞いていたけど、スーツを着ている姿を見ると本当に成長したんだなって思う。
今は頼もしく優しい先生として頑張っていて、やっとクラスの担任になれたと話していた。
二人ともあの頃に比べて立派に成長している姿を見て、安心した。
通信制高校には、同級生だけではなくてご年配の方なども多く通っている。
それが今になって効果を発揮しているのか、二人とも年配の方と話を弾ませている。
私には出来ないことが二人には出来るんだ。
自分には出来ないことが出来る、・・・それってすごいことだよね?
「そう言えば、今日だろ?
あの二人の結婚式って」
「そうだよね、それなのにお店開店させるなんて、さきちゃんって結構無謀だよね!
私だったら一緒に二次会とか行っちゃうけどな~」
「予約して下さる方にキャンセルするなんて、営業者としてあってはならないこと。
開店しているから、あなた方が来て下さっているんじゃないですか!
お休みなんて出来ませんし、お店も大事ですからね」
「確かに休みだったら俺たち、今日ここに来られなかったんだもんな。
この店って居心地がいいから、何時間でもいられるんだよな」
居心地がいいと他のお客さんにも言われたことがある。
それは、店内を照らしている照明の灯りのせいかもしれない。
温かみのある照明がいいとマコトさんにお願いしたから
本当にマコトさんには店内の事で色々とお世話になってばかりで、私は何もしてあげられていないから、いつかお返しをしなくてはと思っている。
実は、さっきまでマコトさんと一緒だった。
私とマコトさんは、通信制高校の頃からの親友だから結婚式に読んでもらったんだ。
ハルの白いドレス姿に二人して涙して、感動してしまった。
ハルのご両親もひどく喜んでいて、うれし涙で顔をくしゃくしゃにしていた。
一人娘だから、お父さんはどこか少しだけ寂しそうな表情をしていたけれど、嬉しいはずだよね?
私は一次会だけ出てお店へ戻ってきてしまったけど、マコトさんは二次会まで参加してから帰ると話していた。
私が一次会しか出席できないから、マコトさんが二次会まで出席するという事になったのだ。
今頃、みんなで楽しんで盛り上がっているころかな?
「お待たせー!
さき、お店手伝いに来たぞー!」
「マコトさん、どうして!
二次会に参加したんじゃなかったんですか?」
「実はさ、あの二人早くお店に戻りたいからって早めに切り上げちゃったんだよ!
真城さんと橋本さんが手伝ってくれてるから大丈夫だよって、あたし言ったんだけどさぁ!」
マコトさんがそう言いながら、料理をテーブルへと運んでいく。
お店に早く戻りたいからって・・・嬉しいけどこんなお祝い事の日まで考えなくていいのに・・・。
返って申し訳なく思ってしまう。
だけど、二次会でも大いに盛り上がって、あの本村が泣いていたという情報を聞きつけた。
ケンカでどんなにやられても涙一つ見せなかったあいつが泣いたんだ。
それほど今日という日が、本村にとってすごく幸せだったのだとわかる。
確かに、自分の好きな人と結婚をすると言うのは、とても嬉しくて幸せなことだと思う。
感極まって泣いてしまうのも、理解できる。
「ただいまー!」
「ただいま帰りました!」
その時、ハルと本村がお店にやってきた。
今日は二人の結婚式だから、お休みしてもいいよって言ったのにわざわざ来てくれたの?
せっかくだから、家族と一緒に過ごせばいいのに。
なかなかお休みが取れないから、こういう時にこそ自由に過ごしてほしいと思っていたんだけど。
二人してラフな格好をしているから、もしかしたら一度自宅に帰ってから来てくれたのかも。
お客さん達が二人の姿を見て、盛り上がっている。
今日来ているお客さん達はみんな昔からの常連で、ハルと本村が付き合っているという事を知っているから、早速二人に絡み始める。
「おめでとうさん!
これで今日からは二人夫婦として過ごしていくんだな」
「結婚すると何かと起きるものだけど、あなたたちならきっと大丈夫ね」
「何せさきちゃんが居るからな~!
ハルちゃんの事不幸にしたら、さきちゃんにぶっ飛ばされるどころじゃないぜ?」
「神楽の事は不幸にしても、ハルの事は絶対不幸にしないって!
責任持ってちゃんと守っていくつもりだ」
確かに私の事は不幸にしてもいいけど、ハルの事だけは幸せにしてほしい。
ハルにはまだ知らないことが沢山あるし、私よりも純粋できれいだから汚いものからちゃんと守ってあげて欲しい。
ハルがいつも笑っていられるような環境を、作ってあげて欲しいし私も作ってあげたい。
二人が挫けそうになったりすれ違いになった時、ケンカしてしまった時には私が力になってあげたいと思っている。
幸せにしてもらうと言うよりも、お互いを幸せにする気持ちが大事なんだよね。
どちらか一方が相手を幸せにするのではなくて、お互いを幸せにしてあげなくちゃいけない。
本村はあれから成長して男らしくなってきたけど、調子のいいところとかは変わっていない。
間の抜けているときもあるけど、何かを守りたいという気持ちは人一倍強い奴だ。
だけど、ありがとうというのは悔しいから、つい口調が乱暴になってしまう。
「当たり前だ、ばか!」
「言い方きついけど、さきちゃん本当は嬉しいんだよね」
「そうそう、さきちゃん本当はすごくいい子なんだって、みんな知ってっから」
言いたい放題言われてしまっている。
だけど、二人が幸せになってくれればそれだけでいいと思うんだ。
おじいちゃんおばあちゃんになっても、ずっと手をつないで寄り添っていられるような、温かい関係のままでいてほしいなって純粋に思う。
いくつ歳を重ねても、変わらない関係でいることは難しいけれど二人なら可能にしてくれるかもしれない。
二人が結婚をして、みんな仕事が順風満帆、そして私はあれから時間をかけて壊れてしまった家族を少しずつ取り戻すことが出来ているから、近いうちみんなで出かける予定だ。
このお店が出来てから、少しずつみんなが自分の幸福を見つけて手に掴んでいるような気がする。
皆さんも、私のお店“ドルミール”で自分だけの幸福を見つけてみませんか……――?