あれから少し厄介なことになってしまった。
いきなりお店に通信制高校の理事長がやってきて、特別講師をしてみないか?なんて言いだすから。
まさか、そんなお誘いがあるなんて思っていなかったから、驚いてどうしたらいいのかわからない。
それに、特別講師と言っても教員免許が必要なんじゃないのかな?
私そんなたいそうな免許なんて持ってないんだけど・・・。
いっそのこと断ってしまおうか。
でも、せっかくお店まで足を運んでくれて誘ってきたから、断るのは失礼かもしれない。
引き受けるにしても、色々考えてしまう。
結局あれから答えが出せなくて、今もこうしてまだ悩んでしまっている。
やっぱり、誰かに相談した方がいいのかな?
一人じゃいつまでたっても答えが出せない。
「さき、偶然ですね。
こんなところで何をしているんですか?」
すると、偶然にもハルが現れた。
すごくおしゃれをしているところからして、買い物かな?
その手にはいくつもの紙袋が握られている。
荷物をこんなに抱えているハルに相談なんてしたら、迷惑かな・・・。
私が黙っていると、ハルがまじまじと私を見てきた。
きっとハルの事だから、私の考えていることお見通しなんだろうな。
私はそう思って、口を開いた。
「実はずっと悩んでたんだよね、あの日の事。
私なんかが特別講師なんて、務まるのかな・・・」
「さきは今まで色々なことを経験してきて、変われた成功者ですよ。
だからこそ、次の人達に伝えてほしいのではありませんか?」
「伝える?」
「不良として振る舞っていた時の事や、通信制高校で過ごした日々の事。
こんなことがあったけれど、今はこうして過ごしていますっていう事を伝えてほしいんですよ。
過ちを犯しても、やり直せるという事を教えて差し上げたらどうですか?」
そんな偉そうなこと、私が言ってもいいんだろうか・・・。
今まで私は確かに過ちをたくさん犯してきて、お父さんを困らせてしまった。
そのことは今でも後悔しているけど、それをプラスに変えるため頑張ってきた。
失敗してもやり直せるという事を、他の人達に伝えるのが私の役目?
私の話を伝えてもあまり役に立たないような気がするんだけど・・・。
だけど、ハルはこれも何かの縁ですから、と言って微笑む。
確かに、言われてみればこれも何かの縁だと思うけど・・・どうしてもよし、引き受けよう!という気持ちがわいてこない。
それは、私が自信ないからなんだと思う。
説明するのうまくないし、自分の話なんてしたことないから順序良く話せるのか不安。
そのことをハルに話したら、笑われてしまった。
「何もうまく話そうなんてしなくてもいいんですよ。
マニュアル通りの話なんて心に届きませんし、つまらないじゃないですか。
上手く話せないから、より相手の心に伝わるんだと私は思いますよ」
「うまく話そうとしなくてもいい?」
「さきは、そのまま自分が経験してきたことなどを話して差し上げればいいんです。
きっと言いたいことが伝わるはずですし、生徒たちとも仲良くなれそうです。
そんな不安に感じなくても、さきなら大丈夫です」