何だかどっと疲れる日々を送っている。
今まではダラダラと過ごしていたけれど、バイトを始めてからは忙しい日々を送っている。
少しずつ話し方も変わってきて、普通の女子らしくなってきたような気がする。
今日はバイトが休みだから、家でゴロゴロしようかと思ったけど家にいるのも良くないと思って外に出ることにした。
外はいい天気で、日差しもとても気持ち良くて過ごしやすかった。
一人で歩いていると、偶然にもハルを見かけた。
「ハル・・」
声をかけようとして、私は途中でやめた。
ハルが見知らぬ女性と一緒に歩いていたから、思わず途中でやめてしまった。
あの女性ってハルのお母さんなのかな・・・。
若々しくて綺麗だし、身なりもしっかりしている。
何て言うか、キャリアウーマンみたいな感じに見える。
楽しそうに話しているものだから、何だか声をかけづらい。
私は邪魔をしないように、そのまま歩いて立ち去ろうとした。
「さきー!」
「!」
びっくりして振り向くと、ハルが私に手を振っていた。
私もすぐに笑顔で振り返すが、ハルに手招きされて歩いていくことになった。
せっかく邪魔しないようにしたのに、私なんかがいいのかな・・・。
歩いていくと、女性が私をまじまじと見て黙っている。
うぅ・・・何か視線が痛いし怖い。
すると、女性が笑って口を開いた。
「あなたがさきさんね。
話はハルから聞いているわよ」
「さき、この人は私のお母さんですよ」
やっぱり、お母さんだったんだ!
すごく若々しくて綺麗な人。
別に私の母親が老けているというわけではないけれど、なんか違う。
思わずタジタジしていると、ハルのお母さんが笑って私を見た。
何だろう・・・何かおかしいのかな?
「とても元不良には見えないくらい、落ち着いた子ね。
お母様もお喜びでしょう?」
「・・・母親とはあまり口を利かないもので」
私は詰まりながら言うと、ハルが遮るように話を変える。
もしかして、気を使わせちゃったのかな・・・。
それから少し世間話をして、ハル達と別れた。
普通の家庭では、あんなふうにお母さんと一緒に買い物したりするのかな。
私も昔は一緒に行っていたような気がするけど。
一人で歩いていると、遠くにはな達の姿が見えて私は遠目で見た。
相変わらず悪さを繰り返している。
やっぱり、ああいうのって良くないよね・・・。
「抜けて良かった・・・」
心底そう思って、その場を通り過ぎていく。
あのグループに入っているままだったら、きっと私はおかしくなっていた。
悪いことを悪いとは思えないようになっていたんじゃないかと思う。
そう考えると、何だか恐ろしくなった。
家に帰れば母親がいるから、まだ帰りたくないな。
一人で歩いていると、あっという間に夕暮れになった。
一日歩き回っていたから足が少し疲れてしまった。
すると、ある人物と出会った。
「さきじゃないか、どうした」
「お父さんこそ、なに今帰り?」
偶然にもお父さんと出会って、一緒に帰ることにした。
私は自分からバイトを始めて何が変わったのか、あの不良グループを抜けたこと全てお父さんに話した。
やっぱり伝えなきゃわかってもらえないこともあるから。
私の話を聞いてお父さんは、お前も頑張っているんだなと笑った。
自分で言うのはおかしいけど、我ながら頑張っていると思う。
「今度お前の友達のハルちゃん呼んで、飯でも一緒に食うか。
初めてできたいい友達なんだろう?」
「うん」
今まで友達と呼べる友達なんて一人もいなかった。
表向きには仲良しだけど裏では、本人のいない場所で悪口を言って裏切っていた。
私は友達だと信じていたのに、悪口を言われて嫌がらせまでされて、信用できなくなった。
また裏切られるのが怖くて、いじめられることが怖くて。
それで不良グループに入って、変わろうと思ったんだ。
でも、それは大きな間違いで変わる方向性が違ってしまった。
悪い意味で変わってしまったせいで、私には友達なんていなかったし同じことをしていれば嫌われなくて済む、そう思っていた。
「さき、高校には行かないのか?」
「出来れば行きたくない、あの高校には・・・。
いきなり毎日通うなんて、出来ないよ」
そう、あの高校には行きたくない。
ハルも通っているけど、それだけの理由じゃ通えない。
だけど、勉強はした方がいいんじゃないかって思ってる。
思っているけど。毎日高校に通いたくないし、縛られたくもない。
そのことをお父さんに話したら、バッグからあるものを取り出した。
それは、学校のパンフレットだった。
「だったら、通信制高校はどうだ?
月に何度かしか通わないし、学費だって安いからいいんじゃないか?」
「通信制高校?
それって毎日通わなくてもいいの?」
「ああ、スクーリングと言って月に数回しか通学しないんだと。
課題が出されて、それを自宅で進めて提出するらしいんだが。
もちろん、行事とかクラブ活動もあるから、友達を作るチャンスもある」
通信制高校かぁ・・・毎日通わなくてもいいところがいいな。
月に数回しか行かなくていいなら、私も無理なく通えそう。
でも、問題なのは出される課題・・・私に解けるだろうか?
中学高校と成績が良かったわけでもないし、悪かったわけでもない。
参考書を買って進めている人もいるとお父さんが話す。
買っても私に理解できるかどうか・・・。
ちょっとハルや上原さんに相談してみようかな?
それから私は二人に相談を持ち掛けた。
上原さんに話したら、スクーリングに通う日は、シフトを入れないようにしてくれると言ってくれた。
頑張るのはいいことだから、出来る限り協力してくれるとまで言ってくれた。
そして、ハルも私の課題を見てくれると言ってくれた。
私が分からなかった問題を、教えてくれるって。
二人して同じことを言っていた。
“頑張っているのをちゃんと知っているから、くれぐれも無理はしないで”と。
「お父さん、私ね通信制高校に行きたいと思ってるんだけど・・・。
この間のパンフレット見せてもらってもいい?」
「おっ、行く気になったのか?
ほら、これがパンフレットだ」
私はお父さんからパンフレットを受け取り、じっくり眺めた。
家から近い・・・ここなら無理なく通えるかもしれない。
行事やクラブもあるし、充実した毎日を送れるかも。
お父さんと少しずつ話を始めていって、10月から編入することに決めた。
今は8月だからまだ時間がある、だから今は出来ることをしておきたい。
卒業すれば、高校卒業認定をもらうことが出来る。
「通信制高校って、今もまともに通っていないくせに通えるの?
どうせ、また中途半端になって通わなくなるわよ」
「さきはいつもそうだもんなー。
少しは俺みたいに頑張ったらどうなんだよ?」
そう言えば母親と兄もいたんだっけ。
やってみなきゃわかんないじゃん。
そりゃあ、今までは不登校だったし好き勝手にしてきたけど、もう違うんだ。
私だって変わりたいと思っているし、努力もしている。
俺みたいにって、他人の言いなりになっているだけの下らない優等生なんかまっぴら。
それじゃ、生きた屍、ただの人形じゃないか。
「部外者は黙ってろよ。
私はお父さんと話しているんだ、勝手に入ってくるな」
私がそういい返すと、二人は黙ってしまった。
いちいちうるさいし目障りだし、こんなのが家族だなんて呆れてしまう。
私はお父さんに言われて、早速書類を書き始めていく。
学費はお父さんの方で出してくれると言ったけど、私も出せるようにしよう。
バイトを一生懸命して、少しでもお父さんの負担を減らしたい。
同時に今不登校で通っていない全日制高校の手続き書類も記入していく。
母親と兄が不服そうな表情をしながら見ているが、私はお構いなしに記入する。
「さき、この書類を学校に出してきなさい。
後は父さんがやっておくから」
「ありがとう、お父さん」
私は書類を手にして自分の部屋へと戻った。
これから新しい生活が始まると思うと、何だか不安でもあり楽しみでもある。
少しずつ変わっていけたらいいな・・・。