面接で採用されて、私は気持ちを入れ替えることにした。
やっぱりこのままじゃいけないと思ったから。
だから、少しずつ変わっていこうと考えている。
あれから、私は家で過ごしてもあまり感情的にならないように気を付けていた。
短気は損気という言葉を思い出して、少しずつでいいから冷静になろうと考えた。
私は、お父さんにバイトの面接に採用されたことを話した。
お父さんは良かったじゃないかと喜び、頑張れと応援してくれた。
ただ、母親と兄だけは納得していないようでいい顔をしなかった。
「いつまで続くかしらね!」
「誰かに迷惑かけたりする前に、やめた方がいいんじゃないか?
俺みたいになんでも効率よくこなせるなら話は別だが」
「お前たちは黙りなさい!」
二人が私に向かって文句を言うが、お父さんがそれを止めた。
お父さんだけが私の味方なんだ。
いつまで続けることが出来るのか、そんなの私にだってわからない。
だけど、やってみなきゃわからないことだってあるはずだ。
そもそも今いう事じゃないだろ。
ハルが遊びに来ているっていうのに、わざわざ言うか?
私はハルを連れて、外へ出ることにした。
「さき、いつもあんなこと言われているんですか?
お兄さんと比較されているとは前に聞きましたが、お兄さんもあんなことを言うんですね」
「うん、いつもそうだよ。
私が小学生のころからずっと言われ続けてるんだ。
もう慣れたよ、分かってもらおうとも思わない」
「さき・・・」
でもね、本当は心のどこかでわかってもらいたいと思っている。
本当はすごいねって褒められてみたい。
だけど、それは絶対にありえない。
悪い事しか言われないし、私のことをわかろうともしてくれない。
全てを諦めたつもりでいたけれど、まだ諦めきれていないのかもしれない。
本当に僅かな願い、どうせ叶わない希望。
「さき、今から言う事聞いてくれますか?
冗談ではなくて真面目な話」
「うん?」
「私も初めてさきを見た時、本当に悪い人なんだと思いました。
万引きを繰り返したり他人を傷つけてお金を奪ったりして、どうしようもないと。
でも、本当は誰よりも一生懸命で真面目で、努力家で不器用だけど前向きで。
だから私はさきに声をかけたんですよ」
いきなりそう言われて、私は固まってしまった。
私はハルを知らなかったのに、ハルはずっと私を遠くから見ていたんだ。
言われたことが本当に私の性格なのか、それはわからない。
だけど、あの頃の私はどうしようもないくらいに悪い奴だった。
でも、少しずつ違和感を抱き始めて悪いことをしなくなった。
自分で言うのもおかしいけど、私は私なりに頑張ってきたつもりだ。
それを見てくれていた人がいるのが、とても嬉しかった。
「迷いながらも正しくあろうと考え行動するさきは偉いです。
さきには失礼ですが、あの母親とお兄さんは間違いだらけで不快です。
比較する方がおかしいんですよ」
ハルは不服そうに言う。
確かに私は迷っている、正しいことが何なのかも考えるようになった。
今までがひどかったから、少しはまともな人間になりたい。
私に貼られてしまったレッテルをはがすのは時間がかかることだろう。
でも、今度はちゃんと普通に過ごしていきたい。
比較することがおかしい、それは私も同感だった。
少しくらい比較されるのは仕方ないことかもしれない、でも。
毎回毎回、比較するのは異常だと思う。
「だから早くあの家を出ていきたいんだよね。
お父さんは私の味方だけど、迷惑かけたくないんだ」
「さき、親に迷惑かけるのは悪い事じゃないんですよ。
迷惑ばかりかけるのは確かに良くない事、でもそれが親の役目でもあるのでは?
お父様だけ距離を縮めてみたらいいんじゃないですか?」
お父さんだけが私の味方をしてくれている。
だから、今後少しずつ距離を縮めていくことも大切。
ハルの言いたいことはよくわかる、味方であるお父さんをもっと大切にしなさいってことだ。
お父さんは私をわかろうとしてくれている。
今度は私がそれに応えていかなきゃいけないんだ。
ハルと二人で話していると、バイクに乗ったはな達がやってきた。
その連中の中にサトコの姿はなかったから、あのまま帰ってきていないことを知る。
「おい、この間はよくもサトコを!!
このオトシマエはきっちり取ってもらうからなッ」
「ちょうどよかった、私から出向こうと思っていたんだ。
もう、全て終わらせるか。
これ以上、絡まれたらめんどくさいし、白黒はっきりつけようじゃないか」
私はハルを庇いながら言った。
実はずっと考えていた、白黒つけて終わらせようと。
だから、ちょうどよかった。
話し合いの結果、私が勝てば連中は金輪際私達には関わらない。
でも、私が負ければ何度でも執拗に関わってくる。
・・・絶対に勝たなきゃいけない。
ハルに手出ししないよう釘を刺し、安全な場所へ遠ざける。
「相変わらず、カッコつけやがって!
お前のそーゆーとこ、ムカつくんだよ!!」
「お生憎様、私もお前らの態度にずっとムカついてたんだよ。
不良だのなんだの偉そうに言ってる割りには、全部親任せじゃないか?
自分の事何一つできないくせに、お金までせびってただのガキじゃないか」
「お前、ぜってー半殺しにするからなッ!!」
「やれるもんなら、やってみろ!」
すると、連中は手にカッターナイフやバットを持っていた。
・・・本気で私を消し掛けに来るつもりなのか?
どちらにせよ、決して油断なんてできない。
空手を習っていたから、武器を向けられてもそこまで恐怖心はない。
ただ、厄介なのは金属バットの方だ。
カッターは切られても深くないから大丈夫だが、バットは当たり所が悪ければ意識がなくなってしまう可能性も考えられる。
とにかく、行動パターンを読むためにひたすらに攻撃をかわし続ける。
「逃げてばっかじゃ、つまんねーだろうがッ!
さっさとかかってこいよ!」
「・・・っ!」
一気に掛かってくるから、対応に困ってしまう。
でも、ここで私も武器を使ってしまったら連中と同じになってしまう。
攻撃をかわして隙を見つけては、急所を狙っていく。
数人がバタバタ倒れていき、少しずつ人数が減り始めていく。
その瞬間、相手の振りかざしたバットが私の腹部に入った。
・・・・っ!!
私は体勢を崩して、その場に倒れこんでしまった。
「みんな、好きにやっていいぞ~!」
そう言って、連中が倒れている私を踏みつけたり蹴りつけたり。
それはもう手加減なしだから、痛いなんてもんじゃない。
ボコボコにされて、私は出来るだけ腹部を狙われないようカバーする。
何分か蹴られ続けて、落ち着いたころには私の手足はあざだらけで、口を切ったのか出血もしている。
遠くでハルが泣きそうな表情をしているのが見えて、私はハッとした。
・・・そうだ、勝たなきゃいけないんだ・・。
白黒はっきりさせるためにこうなったんじゃないか・・・。
このままやられたままでいいのか?
「うちらの勝ちじゃね?」
「あははっ、もう動けないんじゃねーの?」
私は連中の足を思い切り掴み、下から引っ張り上げた。
見事に地面へ身体を打ち付け、動けなくなっている。
これはきっと私の未来に左右されることだから、勝たないといけない。
金属バットを持っている手を思い切り叩き、その手を掴み地面へと投げ飛ばす。
まるで何かが覚醒したみたいに、次々と攻撃し倒していく。
私の身体も限界に近づいてきているし、正直体中が痛くて動くのもつらい。
でも、絶対に負けたくないから。
気がつけば、連中は皆地面に倒れて動けなくなっていた。
「・・・どう見ても、私の勝ちだ。
金輪際、もう二度と私たちに関わるな」
「わ・・・わかったよッ」
私はハルの元へ歩いていく。
もうこれで終わらせたんだ、これからはもう二度と関わらないと約束させたし。
ハルが私に向かって走ってくるのが見える。
だけど、すでに・・・限界を超えていて視界が、ぼやけてくる。
・・・だめ、だ、いしきが、とおくなっ・・・・。