不良グループを抜けるにも、せっかく出来た友達だから抜けられない。
一度仲良くして、今はみんなと話せるようになったから出来ればこのままでいたい。
だけど、誰かを傷つけたり一方的に痛めつけたりなんかしたくない。
板挟みになって、結局決断することが出来ない。
あれから、みんなで万引きをしたり脅してお金を奪ったりしていた。
私がしているのは万引きだけで、お金を奪ったりなんかしていない。
でも、サトコ達は楽しんでいるかのようだった。
今思ったが、みんな高校に通わず不登校だったり辞めたりしているんだよね。
「おい、さき!
今度はあいつから金取って来いよ!」
「えっ・・・」
「お前さ、最近万引きしかしてなくね?
やりあっても急所あたんねーし、ホントに空手習ってたのかよ?」
仲間にそう言われて、私はためらった。
他人からお金を奪うのは、やりすぎと言うか汚いと言うか。
欲しいなら自分で盗ってくればいいじゃないか。
どうしてこう人任せなのかな・・・。
私が急所を外している事には気が付いていないようだ。
やりたくなくて、私は気分が乗らないといって無理矢理断った。
誰かから奪うよりも、自分で稼いだ方が早いだろう。
でも、それを言えばまたうるさく言われてしまう。
「習ってたのは昔だから、もう衰えてきてるんだよ。
ごめんね、役立たずで!」
「そこまで言ってないけどさー、しっかりしてくれよー!」
仲間たちが笑って、私を見ている。
習っていたのは確かに昔なんだけど、その実力は今も健在している。
ごまかしたのは、衝突するのを防ぐ為。
私一人とこの人数では、絶対私に勝ち目がない。
男と違って女はやり方がひどいから、何をされるのかもわからない。
だから今は、まだ黙ったままにしておこう。
それからみんなと分かれて、私は土手に座り寝ころんだ。
何か、何もかもがめんどくさいなー・・・。
そういや、もう少ししたらバイト面接だけど、何かした方がいいのかな。
髪の毛も金髪だし、化粧だってすごくがっつりしているし。
もう考えるのも嫌だなー。
両目を閉じて両手を伸ばして、風を感じる。
ずっとこのままで居られたらいいのに。
目を開けると、目の前には人の顔があった。
「うわぁぁぁっ!!」
「やっぱり・・・目の下クマ出来てる」
えっ、え、なに?
私は驚いて何も声が出てこなかった。
よく見れば、その女の子はこの間ファミレスで見かけた人だった。
メガネをかけてまじまじと私の顔を見ている。
今まで誰も私に近づいてこなかったのに、どうして・・・。
制服を見るからに真面目そうで、クラス委員長タイプ。
私とは正反対の人物に見える。
「神楽さん、私と同じクラスなんですけど知ってます?」
「う、うん」
「どうしてあんな下らない不良グループに入っているんですか?
何か弱みでも握られて抜け出せないとか?」
「いや、もともと好きで入ったんだけど・・・」
おびえる様子もなく、普通に話しかけてくれたことに驚いた。
やっぱり、下らないグループに見えているんだ・・・。
同じクラスだっていうのは知っていたけど、名前まで思い出せない。
周りからみれば、私は浮いているのだろうか・・・。
もともと好きで入ったけれど、今ではその気持ちも薄い。
だけど、一緒に過ごしたいという気持ちもある。
「最初は私も一緒になって楽しんでたけど、なんか違うっていうさー・・・。
行き過ぎてるというか、なんか幼稚なんだよね」
「それはわかります、だって神楽さん万引きしかしていないでしょう。
それに、わざと急所も外してる」
・・・どうして知っているんだろう。
一度も話したことないし、どこで見られていたのか分からない。
彼女が何者なのか分からなくて、何だかちょっとした恐怖感がある。
すると、彼女が私の隣に腰を下ろした。
名前を聞いたら失礼だろうか・・・でもあなたとかお前とかそうやって呼びたくない。
そう考えていると、彼女が口を開いた。
「私は向坂ハル、今私の名前思い出そうとしていたでしょう?」
「ごめん・・・」
「いいですよ、謝らなくても。
私は影薄いですから、覚えていなくても当然です」
そう言えば、私は向坂さんの名前を知らなかったのに、彼女は私の名を知っていた。
どうして知っていたんだろう。
もしかして、不登校になったことで知られたのかな・・・。
言われてみれば、向坂さんはあまり目立たないタイプだった。
失礼だが、いじめられそうなのにいじめられている様子もない。
私はいじめられたのに・・・何かが違うのかな?
「向坂さんは、高校生活ってつまんなくない?
毎日勉強してさ、周りと一緒に過ごすからさ」
私はため息をつきながら言った。
誰かに合わせて行動するのは面倒だし大変なことだ。
勉強してテストでいい点数を取って、それだけじゃないか。
毎日同じことの繰り返しで、つまらなくなったりしないのかな。
すると、向坂さんが笑った。
・・・向坂さんってこんな風に笑ったりするんだ、知らなかった。
「つまらないに決まっているじゃないですか!
でも、仕方ないから適当にやり過ごしているだけですよ」
「向坂さんって、結構はっきり言うんだね。
何て言うか、もっとおとなしいのかとばかり思ってた」
「よく言われますが、言いたいことははっきり言わなきゃ何も変わりませんから。
我慢は時として必要ですが、我慢してはいけない時だってあるんです。
私の事はハルでいいですよ」
「私のこともさきでいいよ。
そのメガネ可愛いね、自分で選んだの?」
「ああ、これねお母さんが選んでくれたんですよ。
私のお気に入りなんです」
ハルも高校がつまらないと感じていたことに、ちょっと驚いた。
こんなにも真面目そうなのに、面倒だと思っているなんて。
言いたいことははっきり言わないと、何も変わらない。
それはその通りだと思った。
だって、今の私がその状態なのだから、よく理解している。
何だろう、どうしてこんな普通に話が出来るんだろう。
一緒に居ると心地よくて、全く嫌な感じがしない。
「さきは、あのグループから抜けないんですか?
一緒に居て何だか苦しそう」
「・・・自分でもね、よくわからないんだ。
一緒に話したりするのは楽しいのに、やってることが嫌っていうか・・・。
でも、せっかく出来た友達だし・・・」
一緒に居て苦しそう?
確かに最近は、一緒に過ごしていても楽しいと感じることが少なくなった。
今まではどんな過ちを犯してきても、何とも思わなかったし反省もしなかった。
だけど、あの夢を見てから本当に怖くなった。
罪を犯すことに少しずつ、抵抗感を抱くようになってきた。
捕まるのが怖いんじゃなくて、いつかこのまま取り返しがつかなくなって、そのうち殺人とかに手を染めてしまう事の方が怖いんだ。
「一緒に同じことをするのが友達とは言えません。
友達と言うのは、お互いの価値観とか考えを理解し合うものだと思います。
一緒に過ちを犯し罪も繰り返すことは、友達だったらしません」
はっきりとハルが言うものだから、私は何も言えなかった。
私は今まで同じことをするのが友達だと思っていた部分があった。
友達だから、一緒に何をしても怖くないと思っていたんだ。
でも、それは大きな間違いで友達なんかじゃなかったんだ・・・。
そうだよね・・・友達なら普通とめたりするものなんだよね?
「さき、もう一度よく考えてみて下さい。
不良になったのは何か理由があるからだとは思いますが、このままでいいのか。
よく考えて答えが出たら、私に教えて下さい。
遅くても構いません、私はさきの出した答えが知りたいのですから」
「このままでいいのか・・・考える・・」
このままでいいわけがない、それはわかっている。
だけど、どうして私は行動に移すことが出来ないんだろう・・・。
一体何に恐れているんだろう・・・それがわかれば行動できるかもしれない。
答えを出すのが遅くても、ハルは待ってくれると言ってくれた。
もし、私が間違った答えを見つけた時、ハルは私を見捨てるだろうか?