気がつけば私の目の前は、真っ赤な海になっていた。
目の前には倒れているおじさんがいて、ピクリとも動かず固まったまま。
私やはなの手には鉄パイプが握られていて、私達は肩で息をしながら立ち尽くす。
仲間たちがそれを見て笑っている。
なに・・・この光景は。
思わずそのおじさんから目をそらして、涙目になる。
ちがう・・・私がしたかったのは、こんなことじゃない・・・っ。
私は手にしていた鉄パイプを離し、床に落とした。
溢れんばかりの涙が流れて、身体がガタガタ震えてしまう。
後ろから誰かに肩をつかまれた瞬間。
「・・・・っ!!」
私は意識を取り戻して、目を覚ました。
どうやら、私は夢を見ていたようだ・・・嫌な夢だった。
でも、本当は半分夢じゃなくて現実。
過去に私は仲間達とおじさんばかりを狙って、攻撃していた。
鉄パイプなんて使っていないが、暴力をふるったのは確かなことだ。
今はもうそんなことしていない、私は。
はなやサトコは他の連中とまだやっているようなことを話しているが。
おかげで、私は連中から意気地なしとか臆病とか言われている。
不良であることは構わないが、他人に暴力をふるうのはなんだか違う気がする。
実は以前から、私は不良グループに向いていないような気がしていた。
万引きとかは大したことないが、誰かを痛めつけるのは・・・。
「おい、さき起きてるか?」
兄の声が聞こえて、私は黙ったまま。
また嫌なことでも言われるんだろうなと思って寝たふりをした。
ドアには鍵がかかっているから、どうせ入れない。
このまま不登校のままだったら、高校をやめた方が早いかもしれないな。
学費だって親が出しているわけだし、もったいないよね。
私は着替えて自分の部屋から出て、リビングへ向かった。
リビングには、両親や兄がいてみんなでご飯を食べている。
私を見ても誰も口を開かない。
「私さ、高校辞めたいんだけど。
通っていない訳だし、辞めた方が学費を払わなくてもよくなるでしょ?」
「駄目よ、何を言っているの?!
高校には行ってもらうわ!
お兄ちゃんだって、ちゃんと行っているじゃない!」
出たよ、また“お兄ちゃんは”ってそれしか言えないのか。
兄も納得いかない表情をして、私を見ている。
大体、私の人生なんだからなにしたっていいじゃない。
どうして口うるさく言われなきゃいけないの?
私が未成年者だからうるさく言われるの?
だったら、早く大人になって自由になりたい。
すると、父親が口を開いた。
「お前は何かやりたいことがあって、そう言っているのか?
ただ辞めるだけなら、意味がない」
「バイトしたいんだよね。
ずっと家にいるのって退屈だし、高校にも行きたくないからさ」
「あんたみたいな子にバイトなんて出来るわけないじゃない。
お兄ちゃんみたいに真面目なら話は別だけど」
「お前に話してないんだよ!」
私が怒鳴ると、母親は驚愕して黙り込んだ。
私が話しているのは父親であって、母親や兄じゃないんだよ。
第三者は、ただ黙って聞いていればいいんだよ、めんどくさいな。
バイトの事を話したら、父親はやってみなさいと許してくれたが、高校を辞めるのは許してくれなかった。
通うつもりなんか無いって言っているのに。
私は、気分転換に外に出てちょっと散歩することにした。
相変わらず、いい風が吹いていて気持ちよかった。
一人で歩いていると、遠くに人だかりが出来ていた。
・・・・?
よく見ると、それははなやサトコの姿で他にも人数が集まっている。
その中心には他校の生徒の姿があり、何やらもめている様子だった。
どっちが悪いのかそれは分からないが、やり合っていて周囲が困っている。
「さき、いいところに!
ちょっとこいつらボコボコにしてくんない?」
「何があったの?」
「理由は後で話すからさ!
頼むよ、さき!」
理由もわからず、私も加わって乱闘が起きる。
何だかよく分からないが、サトコ達が悪いという事を言っている。
私に襲い掛かってくる連中を、順番に片付けていく。
もちろん、急所は外している。
何かあったら責任なんか取れないからね。
すると、はなが口を開いた。
「さき、ちゃんと急所狙えって!
また起きてくるじゃんか!」
そんなことを言われたって、理由もわからないし出来るわけないじゃないか。
相手の連中が走り去っていくと、サトコ達が笑った。
一体何が原因だったのか聞いてみると、サトコ達がチャリを借りようと無理矢理奪ったらしい。
それであんなことになってしまったらしい。
たかがチャリを貸してくれなかっただけでキレるって・・・下らない。
じゃあ、私はそれに協力したことになるわけ?
「バイク乗ってんだから、チャリ借りなくてもよくね?」
「ああいう調子に乗ってる奴見るとムカつくんだよな!
さきだってああいう奴、ムカつくだろ?」
そう言われて何も言えなかった。
私は別にムカつかないけど・・・サトコ達はムカついたんだ。
少しずつ私の中で何かが変わり始めてきているような気がする。
何て言うか、私の考えている不良とは違うような気がしてならない。
それから、サトコ達と一緒にご飯を食べに行った。
お店に入るなり、店員さんが顔色を変えて席に案内していく。
その姿を見て、はな達が笑っている。
・・・・・・・。
席について注文をして、私達は話を続ける。
「それにしてもさ、あいつらチョー弱いんですケド!
“ボクの自転車返して下さい!”だって~!」
「泣くくらいなら、最初から貸せっつーの!」
皆が笑って話しているが、私は笑えなかった。
弱い者をいじめることが不良のする事なら、私は不良でいたくない。
最初は色々あったから私だって、ひどいことをしてきたし色々な人を傷つけて過ちも数えきれないほど犯してきた。
だけど、最近は人を傷つけるたびにモヤモヤするようになった。
注文したメニューが来て、みんな食べ始める。
私はドリンクバーだけにしておいたから、ドリンクを飲んでみんなの話を聞く。
声が大きいから、周囲の人達が迷惑そうに私たちを見ている。
隣にいるカップルが明らかに嫌そうな表情をして、ぼそっと何かを言う。
「なんだよ、言いたいことがあるならはっきり言えよ!
陰でひそひそ言ってんじゃねーぞ、コラ!!」
仲間がそう威嚇すると、カップルが逃げるかのように席を離れていった。
こういう時は、関わらず何も言わずに席を立つのが正解。
何されるか分からないし、何かと面倒だから。
皆が私の方を見て、ドリンクバーだけしか頼んでいないのを見て笑う。
何がおかしいんだろう?
「さきってさ、親から金もらってないの?
よこせって言えばうちの親なんかすぐにくれるのに!」
「うちもそんなもんだよ~!
お金くれるから楽だよ」
話を聞いていると、みんな親からお金をもらっているようだった。
洋服とか化粧品とか、こういった食費代とかも皆親のお金でやりくりしているのか・・・。
不良だって一人前かのように言っている割には、自分の事何一つまともに出来ていないじゃないか。
不良だといきがっているくせに、何も自分のことをせず親任せって。
・・・・っ!
それは私だって全く一緒じゃないか・・・。
あんなに放っておいてくれとか顔も見たくないとか言って、炊事洗濯、全て頼り切っていて自分のことを何一つ出来ていない。
これじゃあ、人の事言えないじゃないか・・・私も同じダメな奴。
「さき、今度バイトの面接らしいよ。
私もバイトしているけど、周りからうざがられてるっていうかさー!
でも金欲しいし、やるしかないんだよな・・・」
「何、さきバイトするわけ?
すげー受けるんですケド!」
仲間達が馬鹿にするかのように笑っている。
何、このムカつく感じ・・・今までこんなこと一度もなかったのに。
バイトすることって、そんなにおかしいわけ?
自分達は親からただせびっているだけのくせに。
ふと、離れた席を見るとある女子生徒がこちらを見て鼻で笑っていた。
あれは確か・・・同じクラスの・・・?
私は、結局最後までみんなに付き合う事になってしまった。