今日はお店が忙しくて、開店前から準備をしていた。
いつも落ち着き払っている、あのハルでさえ少々テンパっている始末。
こんなハルの姿見るのは初めてだから、何だか面白い。
私が盗み見て笑っていると、ハルがムッとした。
何笑っているんですかっ!と私を叱ってきたが、本気で怒っていないことが分かる。
普段見られない姿だからこそ、見入っちゃうんだよなぁ・・・。
二人して準備をしていくと、あっという間に開店時間になってしまった。
時間の流れが早くて、本当に困ってしまう。
予約していたお客さん達がやってきて、早速二人してオーダーを取りに行く。
「俺はソフトメンと・・・あげぱんで!」
「私は焼きそばと春雨サラダ!」
オーダーを聞いて、早速私はキッチンへ向かい作り始めて行く。
本当に最近は料理がスムーズに作れるようになってきた。
最初はぎこちなくて、よく焦がしてしまったりしていたけれど、今はそんなことない。
慣れてきたから、新しい料理も作ってみたいなって思っているし。
何か新しいメニューでも増やしてみようかな?
お客さん達は、懐かしメニューで盛り上がりを見せている。
給食メニューって、どうしてこんなにも盛り上がれるんだろう。
誰もが知っている物だからこそ、盛り上がるのかな?
メニューを出し終えて、ホッと一息つこうかと思ったら、材料が足りないことに気が付いた。
このままでは、焼きそばなどが作れなくなってしまう。
「ハル、ちょっと買い出しに行ってきてもいいかな?
もう材料がなくなっちゃったみたいなんだよね」
「はい、いいですよ。
気を付けて行ってきてくださいね」
「うん、行ってきます!」
そう言って、私は買い出しへ向かう事にした。
ついでだから、卵とか個人的に欲しいものも買っておこうかな。
スーパーでほしいものを購入して、それからお店へと自転車で戻っていく。
その途中、橋本さんを見かけた。
周囲には他の不良連中がいて、橋本さんに何かを言っている。
よく耳を澄まして確認してみると、こう言われていた。
“あのおっさんから金むしりとって来いよ”と。
それはカツアゲで、私もかつて押し付けられたことのある行為だ。
しかも、夢の中で私はそのおじさんを殺してしまっていた。
あくまでも夢の中での話だが、すごく不快な気分になって怖かった。
さすがの橋本さんも戸惑っていて、動こうとしない。
「何やってんだよ、橋本!
早く言って来いよ!!」
「でも・・・私、そう言う事はしたくない・・!
もう不良なんてやだよ・・・ッ」
「今更何言ってんの?
優等生気取るなよ!!」
そう言われて、橋本さんが殴られたり蹴られたりしている。
あのままでは、真城さんのように体中傷だらけになってしまう。
本当は好きで不良をやっていたわけではなかったように見えるけど、私の思い過ごしかな?
何て言うか、根拠はないんだけど今の橋本さん、何だかすごくつらそう。
もしかして、何か理由があって不良をしているのかな?
私みたいに何もかもが嫌になってしまったとか・・・何かしら理由があるんじゃないかな。
だけど、私が立ち入っていいことなのか分からない。
危なくなったら飛び出した方がいいのかと思ったけれど、それじゃあ見て見ぬふりしている事と変わらないような気がする。
・・・あぁ、もうだめだ!
取り返しがつかなくなる前に、やっぱり止めに入らなきゃ!
「橋本さん!」
「あ、お前、この間の馬鹿女じゃねーか!!
あの時の借り、返させてもらうぜ」
「橋本さん、本当に不良をやめたいの?
一時的じゃなく、今後一切関わりたくないの?」
「・・・うん・・ッ。
グループから・・・抜けたい・・!!」
今確かにうんって言ったよね?
不良グループから抜けたいってちゃんと自分の意思を言ったよね?
私は橋本さんを庇うように前へ立ち、連中をじっと見た。
相手はまだ高校生だから、手加減をしなくてはいけない。
すると、連中が私に向かって一斉に立ち向かってきた。
一人ずつ相手にするよりも、こっちの方が効率も良くていいかもしれない。
私は軽やかにかわしつつも、相手の急所を外して攻撃していく。
カバンを振り回されて、私の腕や腹部へ攻撃してくるけれど、大したことない。
切り傷や骨折などに比べれば。
ただ、このままだと埒が明かないから私は少しだけ本気を出して、次々に連中を床へ倒していった。
バタバタと倒れて行く不良グループ。
気が付けば、リーダー格の女子だけが残り、手にはナイフを握っていた。
恐らく護身用ナイフだと思うけれど、あれに刺されてしまったら大変だ。
「お前、いちいち口挟むなよ!!
橋本はずっとこのグループから抜け出せないんだよッ!!
この私が認めてやらねーから!」
本当、口だけはやかましいんだよね。
彼女の人生は彼女自身が決めることで、この人が決めることではない。
それに素手ではなくナイフで立ち向かってくるというあたり、卑怯だと思う。
それって、自分の力では勝てないって認めていることになるから。
私はナイフの攻撃をかわしながら、相手の急所に拳を入れて行く。
悪いけど、この人には手加減してはいけないと思う。
私は少し加減をしつつも、急所を確実に狙って攻撃していく。
やはり、口ほどにもなく弱い。
私は相手を背負い投げるかのように、地面へと投げつけた。
動けなくなった姿を見て、私は橋本さんのもとへと駆け寄る。
「橋本さん、大丈夫?
すぐ手当てするから待ってて」
「・・・後ろッ!!」
「?」
振り返るとリーダー格の女子が、私に向かってナイフを振りかざしてきた。
・・・・っ!!
私はうまくよけきれず、左頬を切りつけられてしまった。
深くはなく浅い傷のようで、出血もさほどひどくなかったから安心した。
私はナイフを奪い遠くへ投げ捨て、その女子の腹部を思い切り殴り、地面へと押し倒して胸倉をつかみ馬乗りになった・
さすがの女子も何も出来ずに、ただ黙りながら怯えた目で私を見ている。
こうでもしなければ、この人は何も理解などしないだろうと思ったから。
「あのさ、彼女の事解放してあげてくれない?
抜けたがっているんだからさ、一緒に居たって意味ないでしょ。
彼女には彼女の道があるから邪魔しないでくれる?」
「お前、・・・つくづくムカつくな!
そう言えば聞いたぞ、お前、橋本の学校で講師やってるんだってな?
教師が暴力振るってもいいのか?」
「言っておくけれど、これは暴力じゃない。
私は大切なものを守るための手段でしかないし、私は正式な教師じゃない。
それに、彼女に何かあったら、あなた責任取れるわけ?
責任もとれないガキが、偉そうに他人の人生に口出しするなよ」
私は冷酷に言い放った。
他人の人生はその本人が決めて生きて行く。
他人がとやかく口を出してはいけないし、責任が取れないならなおさらだ。
こうした方がいいんじゃない?というアドバイスや助言ならいくらでもしてあげて構わない。
ただし、相手を縛るような真似をしてはいけない。
見方によっては暴力かもしれないけれど、これは大切なものを守るためのケンカのようなもの。
別に痛めつけようとしてやったことではない。
それに、私はナイフで頬を切られているわけだから、傷害事件で訴えることも可能だ。
そのことを女子は全く理解していない様子。
自分の非を一切認めず、ただ感情のままに行動しているなんてただの子供だ。
「とにかく、もう橋本さんには一切かかわらないでくれる?
本当なら傷害事件であなたを訴えることが出来るけど、今回の事は事件にしないであげる。
少しはまともに生きたらどう?」
そう言って、私は橋本さんを連れて自転車を取りに行った。
それから橋本さんの手当てをして、歩きながら橋本さんと話をした。
どうやら家族間が冷え切ってしまっていて、自分の居場所が無いと言う。
私も家庭に自分の居場所がなかったから分かる。
だから、私も不良グループに入って好き勝手して来たけど、間違いだって気付かされた。
橋本さんにも、良い友達が出来るといいんだけどな。
自分の事を理解してくれるような友達が。
「あんた、本当に強いしあたしと似てるんだね。
あたしも、あんたみたいになりたいな・・・」
「橋本さんも何か変わるキッカケを与えてくれる人が見つかるといいよね。
私で良ければいつでも話を聞いたりするから、どんと相談して!」
「あんたは本当に変わった人なんだな・・・変なの!
その頬のケガは大丈夫なのか?」
「あぁ、うん、全然へーき!」
私が笑いながら言うと、橋本さんも笑顔を見せた。
こんな楽しそうに笑っている姿を見るのは、初めてだから嬉しかった。
お互い第一印象が悪かったはずなのに、今では普通に話せている。
少しずつ距離が縮まっていくのかな。
それからお互いの事を話していき、橋本さんが私の不良時代の話に食いつく。
私も多くの過ちを犯してきたから、橋本さんには同じ思いをさせたくない。
ちょうどお店の前までやってきた時。
「さき、どうしたんですか、そのケガは!
寄り道しないで下さいよ!」
「うー・・・」
「神楽センセ、バイバイ!」
怒られている私を見て、橋本さんが笑いながら手を振って去って行く。
今、私の事先生って呼んでくれた?
そう思うと何だか嬉しくて、ついついにやけてしまった。
しかし、その後も私はハルに叱られてしまった。