今日はお店の準備で再び慌ただしくしていた。
予約は珍しくこの日は無くて、ゆったりした時間を過ごしている。
開店までまだ2時間あるし、少しのんびりしようかな。
ハルもまだ来てないし、のんびり雑誌でも読んでいよう。
準備もすでにしてあるから問題ないし、少しだけ、少しだけ。
私が読み始めたのは、色々な飲食店を特集している飲食店紹介雑誌「mon style(モン・スティル)」。
メインからデザートまでなんでもお任せあれ!といったような雑誌になっている。
実は毎号欠かさずチェックしている。
今回は・・・レストラン特集かぁ!
ページをめくっていくと、美味しそうなレストランばかり紹介されていた。
いいないいな、おいしそう。
いつか私のお店もこういった雑誌で特集されたらいいのにな・・・。
そう言えば、まだネットで紹介していなかった。
ホームページは作った方がいいとマコトさんに言われて作ったけれど、それ以外の宣伝広告というものが無かったことに気が付いた。
今予約してくれているのは、きっとホームページを検索してくれた人たちだよね?
「おはようございます、さき」
「おはよう、ハル。
ねぇ、うちのお店ホームページ以外にも宣伝した方がいいかな?」
「来てもらえるのは嬉しいですけど、私達二人で切り盛りしていますからね。
ですが、やるだけやってみるのもいいと私は思います。
その分、予約をして下さる方も増えると思いますので!」
「だよね、じゃあ、ネット広告でも作ってもらおうか?
ほら、あの飲食店の口コミ評価とか書いてあるサイトみたいにさ!」
私がハルにそう告げると、ハルは賛成してくれた。
ホームページだけでは、知らない人が多すぎてお店の存在をアピールできない。
口コミで広がることも難しい。
ネットで宣伝をしていけば、うちがどんなお店なのか知ってもらえるし予約もしてもらえる。
また口コミを聞いた人たちが、ネットで検索をしてくれる。
プラスの連鎖が続いて、うちのお店も少しずつ活発になっていくような気がする。
私達二人で切り盛りしているから、なかなか最初はうまくいかないかもしれないけれど、やりたい。
雑誌とかテレビだとさすがにお客さんがどっと押し寄せてきてしまって、大変なことになってしまいかねない。
だから、最初はネットの方がいいと思うんだ。
そんなことを考えていると、お店の電話が鳴り響いた。
「はい、こちらドルミールです」
実は言い忘れていたけれど、私達のお店の名前はドルミール。
英語表記だとdormir。
フランス語で「眠る」という意味で、給食メニューを食べ、幼い頃に戻ってまた夢を見てほしいという意味を込めてドルミール。
皆がどう思うのか分からないけれど、私は結構気に入っている。
電話に出ると、相手の人は男性だった。
『初めまして、私mon styleという雑誌の者ですが。
ぜひドルミールを取材させていただきたいのです』
「取材、ですか?
少々お持ちいただいてもよろしいでしょうか?」
「はい」
私は一度電話を保留にして、ハルの方を見た。
事情をハルに説明して、二人で今後どうしていくのか話し合っていく。
ネットで宣伝しようかと考えていたら、雑誌から取材したいという話。
ハルはそっちの方が宣伝効果もあり、お客さんもたくさん来てくれると喜んでいる。
私としても、あの有名なmon styleに取材してもらって紹介されるのは鼻が高い。
今回取材をしてもらって、多くの人に知ってもらえるようにした方がいいよね。
「お待たせ致しました、ぜひお引き受け致します。
出来れば、お店が午後17時開店ですので、その前の時間帯でお願いできますでしょうか?
詳しい日にちや時間が決まりましたら、またご連絡いただけると幸いです」
「ありがとうございます。
詳しいことが決まりましたら、ご連絡差し上げます。
それでは失礼致します」
そう言って、電話を切った。
それにしても、ずいぶんと話し方が丁寧な人だった。
何て言うか、テレビ関係とか雑誌関係の人は交渉が雑だって聞いていたから意外だった。
それとも、あの電話の人物だけ丁寧な人だったのかな?
全く嫌な感じがしなかった。
取材ってどんなことを紹介すればいいんだろう?
まずは店内と場所と・・・料理だよね!
人気メニューを掲載してもらった方がいいよね、看板メニューみたいに。
「ハル、どのメニューを紹介してもらおうか?」
「やっぱり、あげぱんは外せないですよね!
それから、駄菓子も掲載していただけるとありがたいですね」
「そうだ、駄菓子をすっかり忘れてたっ」
「全く、さきは相変わらず抜けていますね~!
駄菓子と給食メニューのお店なのに!」
「ごめんごめん!
駄菓子もたくさん紹介してもらおう!」
私が笑いながら言うと、ハルも笑った。
すっかり駄菓子と言う存在を忘れてしまっていた、危ない危ない!
ハルがいてくれてよかった。
駄菓子は600円チャージ制で食べ放題だという事も、大々的に紹介してもらわなくては。
後は何を紹介してもらえばいいんだろう。
初めての事だから、色々分からなくて戸惑ってしまう。
珍しくハルも慌てているように見える。
それからいつも通りに回転させて、お客さん達に料理を振る舞っていく。
実は以前話していた、デザートメニューが正式に取り入れることにした。
さくさくパンダの間にマシュマロを入れた物と、クマの形をしたフルーツサンド。
これがとても好評で、女性に人気となっている。
男性にとっては甘さが少しくどいから、食べにくいかもしれない。
「店長さーん、このパンダのやつ美味しいね!」
「私はフルーツサンドが好き!」
「ありがとうございます!
頑張って考えた甲斐がありました!」
美味しいって言ってもらえると、本当にすごく嬉しい。
お客さんはお金を払って食べてくれるから、やっぱり美味しいものを提供したい。
食べられて良かった、美味しかったと言ってもらえるように頑張りたい。
今日もそんなお客さんの為に、料理を振る舞っていく。
給食メニューには関係ないけれど、お好み焼きとか作ってみたいな・・・。
以前、お好み焼き屋でアルバイトをしていたから、そんなに上手ではないけれど作ってみたい。
お好み焼きって好きな人が多いし、自分で作るよりも出来ている物を提供した方が嬉しいよね。
何だか、また新しいメニューを取り入れたくなってきたな・・・。
「さき、今新しいメニューを取り入れたいって思いませんでした?」
「な、なんでわかったの?!」
「さき、メニューの事を考えているとき、やけにニヤニヤしていますからね。
それで、どんなメニューを思いついたんです?」
「あ、お好み焼きを新しく追加してみたいなって・・・。
前、お好み焼き屋でアルバイトしていた時楽しかったから。
でも、自己満足でやるのは良くないもんね、だから大丈夫だよ!」
「それなら、ミニお好み焼きなんていかがですか?
食べやすく少し小さめのお好み焼きなら、見た目もかわいらしいですし」
確かに・・・普通のお好み焼きならどこにでもあるし、少し小さめなら女性でも大口を開けなくても食べられるから、デートとかで来ても安心だよね。
見た目も可愛らしいし、一個ずつ材料を変えても面白いと思う。
小さい目玉焼きとかを乗せてもいいと思うし。
あ~、色々アイデアを出したくなってきちゃった!
でも今はまだ仕事中だから、後でゆっくりハルと一緒に考えてみようかな?
それにしても、今日来ているお客さんは本当によく食べてくれている。
今まで多くの人達が私の作った料理を綺麗に平らげてくれたけれど、今日のお客さんは食べっぷりが良くて見ていて気持ちが良い。
「店長さん、あげぱんとアイス下さーい!
乗っけて食べると絶対うまいぜ!
な、店長さん!」
「はい、あげぱんとアイスは相性抜群です!」
私はすぐにあげぱんとアイスを運んだ。
その男性は、早速乗せて食べ始めたが、本当に幸せそうな表情をして食べている。
美味しそうに食べる人っていいなぁ。
私も食べる時、作ってくれた人の気持ちを意識するようにしてみようかな。
久々にお客さん達と一緒に盛り上がって、気が付けば閉店時間に差し掛かっていた。
楽しい時間は本当にあっという間で、何だか寂しくなってしまう。
閉店時間の為、私とハルはお客さん達をお店の外まで丁寧に見送ることに。
楽しめたみたいで私も嬉しかった。
また来るね!と言ってくれたけど、本当にまた来てくれるといいな。
私とハルは店内に戻り、お皿などを片付け始めて行く。
「今日はとても良い一日でしたね、さき」
「うん、雑誌の取材依頼も来たし、お客さんにも喜んでもらえたし!
何だろう、すごく充実した一日だったような気がする」
「あっ、そうでした!
例のお好み焼きについてアイデア出し合いましょうか?
ノートにメモをして、実際に作って味を確かめないといけませんし」
「うんうん!
たくさんアイデアを出して、作ってみよう!
あ~、楽しみだな~」
本当に楽しくなってきた!
新しいメニューを考えるのが楽しいと言うより、ハルと一緒に考えるのが楽しいんだよね。
一人だったら、きっと寂しくてなかなか考え付かないかもしれない。
誰かがそばにいてくれるって、当たり前のことではなくて特別なことなんだ。
ハルと出会っていなかったら、今頃私はどうなっていたんだろう。
きっとあのまま間違った方向へ進んでしまって、戻れなくなっていたかもしれない。
そう考えると、何だか急に怖くなってきてしまった。
私はハルと一緒にアイデアを出し合いながら、新しいメニューを詳しく決めて行く。
こんな暖かい日が毎日、これからも続いていきますように。
もう誰も悲しい思いなんかしない日々を過ごしていきたい。