私の名前は、神楽さき。
通信制高校を卒業してから、自分のお店を持てるようになって今では毎日必死に一生懸命に頑張っている。
やっと持つことのできた自分のお店だからね。
長く開店できるように自分が頑張らなきゃいけないから。
今では常連客も足を運んでくれていて、すごくにぎわっている。
最初はどうなることかと思ったが、チラシを配ったことでお客さんがたくさん来てくれた。
すごい賑わいで最初はメニューを出すのが遅れてしまったり、間違ったテーブルに出してしまう事もあって悪い評判が少し出てしまったりもした。
だけど、少しずつ改善してようやくまともにお店を運営できるようになってきた。
「さき、今日もたくさん人が入っていますね!」
「うん、忙しくなりそうだね!
頑張ってお客さんに満足してもらわなくちゃ」
一緒にお店を運営しているのは、私の親友であり運命を変えるきっかけを私にくれた向坂ハル。
ハルもあれから調理師免許を取得して、調理が出来るようになった。
二人して忙しく料理を作っていく。
お店を開店させてからもう5年が経っていた。
この5年間、私もハルも腕を磨いて料理が上手になって、多くの事を学んできた。
接客だって私はお好み焼き屋でアルバイトをしただけで、ちゃんとした接客を習っていない。
最低限の言葉遣いや振る舞い方は修得したけれど、完全なものではない。
だけど、私は一生懸命、気分の良い接客を心がけている。
もし、自分がお客だったらどんな接客をしてもらうのが気持ち良いことなのか。
それを常に考えながら接客するようにしている。
「すみませーん、あげぱんとシチューお願いしまーす!」
「はい!」
新しいオーダーが入って、私とハルは調理していく。
なぜ忙しいのかと言うと、働いているのが私とハルしかいないから。
だから、どうしても忙しくなってしまう。
お店自体がそんなに大きくないから、お客さんもそんなに入れない。
そのため、オーダーを受けるのも調理するのも二人でどうにかなると思ったのだ。
でも、実際に開店してお客さんが来てみると、対応するのも少し大変だ。
最初は手が回らなくて本当に大変だったけれど、今は最初がとても忙し過ぎたせいなのか、慣れてしまったような感じがする。
それでも、金曜日は予約がたくさん入って、対応がいっぱいいっぱいになる。
お店がそんなに大きくないから入れる人数も決まってしまっている。
そのせいで、常に予約が絶えない。
予約客が多いから、いきなりお店に来られても入れないことが多く、他のお客さんを逃がしてしまっている。
「お待たせいたしました。
あげぱんとシチューでございます」
「ありがとうございます!」
お客さんにメニューを出して、再びキッチンへと戻る。
お客さん達が、楽しそうにしながら食べてくれるのが嬉しくてつい見てしまう。
それはハルも同じみたいで、お客さんを見て微笑みを浮かべている。
やっぱり笑みがこぼれちゃうよね。
私は、使い終えたフライパンや鍋をこまめに洗って消毒していく。
食中毒を出してしまったら、即営業停止になってしまうから。
やっと落ち着いてきて、私は明日の準備をすることにした。
いつもお店を閉める前に、こうして翌日の準備をしている。
ちょっとした手間をかけることで、次の日の仕事が一気に減って楽になる。
「さき、キャベツが無いので切ってもいいですか?」
「うん、お願いしてもいいかな?
私は、キュウリ切っておくよ」
焼きそばで使うキャベツと、春雨サラダで使うキュウリが足りなくなってしまった。
作るたびに材料を切っていると、その分時間をロスしてしまう。
だから、こうして準備しておくに限る。
今うちのお店で人気なのは、ソフトメンとたこせん。
ソフトメンは学校給食を代表するものだし、たこせんはソースせんべいやミルクせんべいで使うあのおせんべいの中に、たこ焼きを入れて挟んで食べるもの。
これがまた美味しいんだよね。
私も何度か試してみたけれど、すごく美味しくてハマってしまった。
他のお店では、なかなか食べられないからまた来てしまう、というお客さんもいる。
実は、たこ焼きではなくてたまごを挟んだたまごせんも考えている。
ただのたまごではつまらないから、何か味付けをしたいんだけど・・・どんな味付けにすればいいんだろう。
すると、ハルが恐ろしい表情をして私の元へやってきた。
一体何があったんだろう?
「・・・さき、卵がっ」
「あー、その卵の事か!
どうかしたの?」
「どうかしたのって・・・まさか、さきの仕業ですかっ?!
どうして卵を冷凍したんですか!」
「え、卵は冷凍保存すると長持ちするし、味も変わっていいんだって。
お買い得で買ったんだけど、なかなか消費できなくてさ!」
使わず消味期限を迎えてしまったら、なくなく捨てることになってしまう。
それはいくらなんでも、もったいなさすぎるから冷凍保存をしたのだ。
正直、卵の保存状態についてみんながどうしているのか気になった。
そこで調べたところ、冷凍保存が一番いいと情報が出てきた。
だから、実際に冷凍保存をして試してみた。
どんな感じになるのか、実際に見てみたかったと言うのもあるけれど。
色々調べたら、白身より黄身の方が水分も15%なくなって、味が濃厚になるらしい。
わざとこれを狙って、冷凍保存している人もいるみたい。
私も卵を使って何か試してみようかな?
黄身がもちもちしているから、卵かけごはんももちもちなんだとか。
とりあえず、この卵を使って新しいたまごせんについて考えてみるか。
好きな組み合わせとしては、やっぱりマヨネーズ何だろうか?
さすがにお醤油っていうのもねぇ・・・。
「ねぇ、ハル、この卵で卵かけごはんしよっか?」
「えぇっ、本当に大丈夫なんですか?!
お腹壊したりしませんか?」
「ハルは臆病なんだから~、大丈夫だよ!」
ちゃんとサイトでも確認したし、きっと大丈夫。
しばらくオーダーも入らなさそうだったし、私達はその卵を3時間解凍することにした。
今割ってしまったら、ちゃんとしたものを食べられないからね。
それまできちんとやるべきことをやって、楽しみは後半に取っておく。
調理器具や食材を少しずつしまっていく。
給食メニューだけではなくて、駄菓子ももぐもぐ食べている。
実は、駄菓子の数も最初の頃よりバリエーション豊富となっている。
数えられるくらいしかなったけれど、今は少しずつ利益も上がってきて、ほんの少しだけ余裕が持てるようになった。
中には私の知らなかった駄菓子もあって、本当に新鮮だ。
色トンガリっていう駄菓子、知っている人いるかなぁ?
小さなソフトクリームのような砂糖菓子で、よく小さい子が好きで食べている。
「ありがとうございました!」
最後のお客さんが帰って行って、やっとお店を閉めることが出来た
気が付けば、今日もまた遅い時間になってしまった。
そして、ハルが卵を手にした。
あれから数時間経っているから、そろそろ解凍しているんじゃないかと思う。
私はお茶碗にご飯をよそって、テーブルへと置いた。
ハルが私の方を見て、それから少し震えた手で卵を割りご飯の上へ乗せた。
白身はさらっとしていて、黄身だけがご飯の上にポンと丸くなって乗っている。
その姿はまるで、食品サンプルのようになっている。
「さき・・・、本当に大丈夫なんですよね?」
「大丈夫だよ、そんなに不安なら私が食べてあげようか?
もっちりしてて、きっとすごく美味しいよ」
そう言って、私はお醤油をかけて口へと運んでいく。
最初は私もちょっとした恐怖感があったけど、食べてみるとやっぱり美味しかった。
黄身がもちもちしているし、味も濃厚ですごく美味しい。
普通の卵かけごはんとは大違いだ。
黄身の濃厚さがこれだけ違うのが、驚きだ。
何だか不思議で面白い。
私が食べている姿を見て、ハルも恐る恐る口へ運んでいく。
その小さな手がかすかに震えていることに気が付いた。
今まで食べてきた、卵かけごはんよりずっと美味しくてハマってしまいそうになった。
そうだ・・・メニューに増やすのは、たまごせんじゃなくて卵かけごはんにしようか。
こっちの方がインパクトもあるし、味もしっかりしているからいいかもしれない。
「・・・おいしい!」
ハルも美味しかったようで、二人して拍手をしながら過ごしていた。これから増やすメニューは卵かけごはんで決定だ。
家でよく食べる料理だけど、お店で出しているところはまだ少ないんじゃないかって思うんだよね。
それに、なかなか家庭では卵を冷凍にしないだろうし。
冷凍する勇気がなくて、恐らくテレビなどで見ているくらいだと思う。
値段はまだ決まっていないが、これだったら居酒屋の帰り締めの料理として食べられていいかもしれない。
「ねぇ、ハル。
この卵かけごはん、新しくメニューに加えてみようか?
卵ならたくさんあるしさ」
そう、卵ならこの間まとめ買いをしてしまったから、たくさんある。
それに保存の仕方もしっかり覚えたから、問題ない。
私がそう言うと、ハルは満足そうに笑って見せた。
今後、こうやって少しつ新しいメニューを増やしていきたい。
色々研究を重ねて、一番いいものを商品にする。
また駄菓子を使ったメニューを増やしていきたい。
その駄菓子をうまく活かせるように。
作ったらまず自分で確認をしなければいけないし、それから周囲に相談するのがいいかもしれない。
新しいメニュー開発するまでに、資金もかかるし、時間もかかってしまう。
「さきって、毎回すごいアイデア出しますよね?
何かヒントでもあるんですか?」
「ううん、特にないよ?
何て言うか、こんなものがあったらいいなって思うだけだよ」
私は笑いながら、ハルへ言い返した。
お店で卵かけごはんが食べられるのって、みんな嬉しいんじゃないかと思うんだけど、どうなんだろう?