あれから私はあの不良グループとは手を切った。
もう二度と連絡もしないし、一緒に行動するつもりもない。
自分の部屋でベッドの上を寝ころびながら、私はただただあの時の感情を思い出す。
あの時、ハルが傷つけられた瞬間、私の中で何かが変わったような気がするんだよね。
今までは自分の思い通りにならなくて暴力をふるったりしてきたけど、それはやっぱり違うんだ。
あの時は確かにハルを守りたいと思って、気がついたらあんなことをしていた。
今思い返すだけでも、正直びっくりする。
「あれが私の姿・・・?」
怒りの感情に任せてではなくて、ちゃんと誰かを守りたいと思って手を出した。
いつもなら自己嫌悪に陥ったりしていたけど、そんな気分もなかった。
暴力とケンカって、もしかしたら違うのかもしれない。
暴力は力任せに相手をねじ伏せる行為で、ケンカは何かを守りたい時にするもの。
そう考えると、私は今までとんでもない勘違いをして行動していたことになる。
それにこんなに暇っていう事は、それだけ連中とつるんでいたことがわかる。
「私は・・・どうすればいいんだろ」
時刻は14時半過ぎ。
何もやることが無いと暇で仕方がない・・・でも高校には行きたくない。
そういや、もうじき面接だっけ?
早くバイトしてこんな家出ていきたいな。
そう考えていると、私の携帯が鳴った。
確認すると、それはハルからのメールで今すぐ近くの公園に来てほしいとの事だった。
私は適当に着替えて、公園へと向かった。
「お待たせ、待った?」
「ううん、待ってないですよ。
急に呼び出してごめんなさい、バイトの事聞きました」
急に呼び出されて、正直驚いた。
だって今は授業中のはずだから。
話を聞くと、今日は午前授業だけで午後は選択授業なんだとか。
選択授業って・・・わざわざ選択する奴の気がしれない。
でも、最低でも二つ選択しなければいけないらしいから、めんどくさそう。
それよりも、誰からバイトの話を聞いたのだろうか。
あ・・・あの連中から聞いたのかな、確か馬鹿にして笑っていたから。
「それで、さき、面接はその格好で行くつもりじゃないですよね?」
「そのつもりだけど」
「だめですよ、それじゃ面接採用されないじゃないですかっ。
ほら、ちょっと私についてきてください!」
ハルがむぅっと頬を膨らまし怒っている。
え、なに、この格好じゃダメなの?
確かに金髪はまずいかなって思ったけど、やっぱり駄目なのか?
黙ったままついていくと、ある一軒家に着いた。
初めて見た・・・こんな立派な家。
ここがハルの家なのかな・・・玄関のドアを開けて私を迎え入れてくれる。
お邪魔しますといって中へ入ると、室内には誰も居なかった。
働いていて家にはいないのかな?
「さき、こっちです」
呼ばれていくと、そこは洗面所だった。
一体、何をするんだろう・・・そう思っていたらハルが染髪料を手にしていた。
それも黒髪戻しと書いたものを。
あ、もしかして今から髪染めするのか?
私が黙ってみていると、ハルが準備をし始めていく。
何て手際が良いんだろうか。
そして、準備を終えてハルが私の髪に染料をつけてなじませていく。
相変わらず、優しく丁寧な手つきで染めてくれる。
「さき、黒髪にして口調を少し直せば面接はバッチリです。
あと服装も少し変えた方がいいかもしれませんね」
「口調は簡単に直せないよ~、染みついてるもん。
服装は・・・どんな感じが良いんだろ?」
「後で一緒に洋服を見に行きましょう。
さきに似合う洋服は、こんなダボダボしている物よりすっきりしているものです」
髪は黒くしてもらえるからいいとして、口調を直すのは難しい。
今までずっとこんな話し方で話してきたから、簡単には変えられない。
でも、少しずつ努力していきたいなって考えてはいるけれど、どうかな・・・。
服装もやっぱりこんなんじゃダメなんだ・・・確かにダボダボだしね。
だけど、どんな服装をすればいいのか自分ではよくわからない。
ハルは鼻歌を歌いながら、私の髪染めをしている。
しばらくして私はお風呂を借りて、髪の毛を洗い流した。
鏡を見てみると、黒髪になった私が写っていて後ろにはハルの姿が。
すごい・・・きれいに染まってる。
私は金髪に染めるのもうまくいかなくて、まばらだったのに。
本当に手先が器用なんだろうな。
ハルは満足そうに笑いながら、自分の洋服を貸してくれた。
カジュアルな洋服だから、私も抵抗なく着ることが出来て安心した。
「さて、洋服を見に行きましょうか」
「待って、私そんなお金持ってないよ」
「大丈夫です、私がプレゼントしてあげます。
助けてもらったお返しもまだでしたし、ね?」
いいのかな・・・そんなことまでしてもらって。
逆に何だか申し訳ないような気がして、落ち着かない。
でも、ハルがせっかく言ってくれたことだし甘えてもいいのかな・・・。
一緒に近くのお店に行って洋服を探していくが、ピンとくるものが見当たらない。
そもそも何が似合うのかすら、私にはわからないから探しても・・・。
すると、ハルが一着のカジュアルな洋服を持ってきてくれた。
「さきはカジュアルな洋服の方が似合いますよ。
あんまり女の子らしい洋服は、嫌いでしょう?」
カジュアルな洋服か・・・確かに女の子らしい洋服は着たくないかも。
私は早速その洋服を持って試着室へと向かって、実際に着てみる。
・・・・っ!
ハルの言う通り、その姿はしっくり来て納得できた。
こういった洋服が私には似合うんだ・・・。
ハルがカーテンを開けて、私の姿をまじまじと見つめる。
何か変なのかな・・・黙っているから何だか怖いし不安に思ってしまう。
すると、ハルが笑った。
「いいじゃないですかっ!
よくお似合いですし、こっちの方がずっとさきらしくて私は好きです」
「・・・ほんと?」
「嘘なんかつきませんよ、すごくお似合いです!
これにしちゃいましょうか!」
そう言って、ハルが足早にレジへと向かっていく。
早いな・・・あれ、ハル現金じゃなくてカードを出している。
もしかして、クレジットカードなのかな?
・・・ま、まさか、それだけあの洋服が高かったとか?
どうしよう・・・もしそうだったら申し訳なくて顔向けも出来ない。
ハルが笑顔で戻ってくる。
「ハル、もしかしてそんなにそれ・・・高かったの?
クレジットカードで支払うなんて・・・」
「違いますよ、1万円以内ですが手持ちがなかったもので。
そんなに気にしなくてもいいんですよ」
ほんとかな・・・怪しいな。
それから再び近くの公園へ戻って、面接について話した。
どうすれば採用してもらえるのか、色々話して私は口調を直すことに決めた。
今後直していくのは難しいから、とりあえず面接のときだけは直そうって。
丁寧語とかよくわからないけど、気持ちが伝わればいいとハルは言った。
気持ちが伝わればいい・・・それが難しいんだよな・・。
それから、面接の練習をしてハルが改善策を出してくれた。
「さきはもともとはきはきした声だから、もっとゆっくり話すといいですよ。
焦って話してしまうと、相手が聞き取りにくいでしょうから」
「うん、わかった!」
何度も話し方の練習をして、少しずつ慣れていく。
何だか本番でも大丈夫な気がしてきた。
どうしてこんなに心強いと思えるようになったんだろ・・・。
でも、この時の私はまだ何も知らなかった。
これから起こる出来事を・・・。
私達が一生懸命練習している姿を、サトコ達に見られていたことに気付かずに。
何者かの視線を感じて、私はあたりを見渡した。
・・・気のせいかな?
今、確かに誰かに見られていたような気がするんだけど・・・。
「さき、どうかしましたか?」
「ううん、たぶん気のせいだと思う」
そう、これは気のせいじゃなかったんだ。
それを知るのは、面接の時だと知らずに私たちは面接の練習を続けた。