あの後、私はハルと連絡先を交換した。
メールで色々な話を聞かせてもらって、それが何だか楽しくて。
毎日とまではいかないけど、メールを繰り返していく内に距離が少しだけ縮まったような気がして何だか嬉しかった。
高校での過ごし方とか聞いていると、ほんの少しだけ高校に興味を持った。
今では、いじめもひどくなくなって過ごしやすくなっていると聞いて、少し安心した。
高校にはいい思い出が無いから、どうしても通うのが嫌になる。
―♪~
すると私の携帯が鳴って、確認すると電話だった。
相手ははなで今すぐ来てほしいとの事で、私は気が進まないものの行くことにした。
何だか嫌な予感がするのは、なぜだろう。
近くの公園まで行くと、すでにみんな集まっていた。
みんなの顔を見るとにやにやしていて、何だか気味悪かった。
私が黙ってみていると、仲間が口を開いた。
「さき、ちょっとある男から金巻き上げて来いよ!
お前なら朝飯前だろ、天才的だったしな!」
「遊ぶ金が無くてさー」
遊ぶお金が欲しくて、スリをして来いっていうの?
しかも、この私に?
あれから私になりに、ちゃんと真剣に考えてみた。
このままでいいのかどうか。
考えた結果、今このグループを抜け出さないともう後戻りはできないかもしれないことに気が付いたんだ。
今までは過ちを犯してもどうってことなかったけど、今は違う。
私は小さく両手をぐっと握り拳を作った。
“そんなの友達とは言わない”
ハルに言われた言葉を思い出して、私は恐る恐る前を見た。
「私、もうこのグループから抜けたいんだけど」
私がそういうと、みんな一瞬黙ってすぐに笑い始めた。
まるで嘲笑うかのように、笑って私を見る。
何かそんなにおかしいの?
今まで行動に移せなかった理由、それは抜ける際手を出されるからなのかもしれない。
もう一つは、いつまでもずるずる引きずった関係になるんじゃないかと思ったから。
理由が分かったから、もうきっと大丈夫。
「今まで誰が仲良くしてやったと思ってんだよ!!
今更やめたいなんて、都合良すぎじゃないか?」
「私だって最初は楽しかったよ、でも!
これ以上、犯罪に手を染めたくないしこんなの友達って言わないから。
私はもう誰も傷つけたくないし、我慢もしたくない!」
確かに私から入りたいといって、この不良グループに入った。
最初は同じことをして、本当に仲間だと思い楽しく過ごしていた。
だけど、だんだん価値観とかが違ってきて一緒に過ごすのがつらくなってきた。
何をするにもいつも私に頼ってきて、それも嫌だった。
私はその全てをみんなの前で打ち明けた。
後悔しないように、言いたいことを全て吐き出したのだ。
すると、連中の一人が私の髪を思い切り掴んで引っ張り上げた。
・・・・っ!!
「簡単に抜けられるとでも、思ってんのか?!
抜けたいんなら、その前にさっさと金取って来いよ!
そしたら勝手に抜けろよ」
「それは・・・出来ない!」
「ふざけんなよッ!!」
そう言って、更に私の髪を引っ張る。
痛いなんてもんじゃない。
それでも、スリなんかしたくないから断り続ける。
別に暴力を振るわれたって構わない。
だって、私はそれだけのことをたくさんの人にしてきたのだから。
当然の報いなんだ、だからもう好きにされたって仕方がない。
抵抗だってしないさ。
「何をしているんですか!!」
聞き覚えのある声が聞こえて、私はそちらに目を向ける。
それは連中も全く同じで、確認すると・・・ハルの姿があった。
どうしてこんなところに・・・!
途中で返信が無かったから、わざわざ確認しに来たんだろうか?
連中はハルを見て笑っている。
また弱そうなのが来た、そう言って嘲笑している。
「ハル、危ないから・・逃げて!」
「逃げません、絶対に。
さきを解放してもらっていいですか」
「なんだよ、お前さきの“トモダチ”か?
ははっ、正義の味方のつもりかよ?」
だめだ・・・このままじゃ、ハルまでケガをしてしまう。
ハルも負けじと色々言い返している。
冷静沈着で感情が露わになっていないから、すごいと思った。
私はすぐ感情的になってしまうから、すごくうらやましい。
すると、連中が頭にきたのかハルの身体を強く突き飛ばし、ハルは地面に倒れてかけていたメガネが地面に落ちてしまった。
そして、サトコがハルの落ちたメガネを踏みつけ、レンズを割ってしまった。
「あっ・・・!」
「ムカつくこと言ってるから、こうなるんだよッ!!
壊れたメガネの方がお前にお似合いだよ?」
「お母さ~ん、私のメガネが壊された~っ!
あははははっ!!」
あのハルが掛けていたメガネって、確かお気に入りだって言ってた・・・。
お母さんが選んでくれたものだって、嬉しそうに話してくれた。
ハルが傷ついた表情をしながら、壊れたメガネを手に取り大事そうにぎゅっと握りしめる。
そんなハルの姿を見て、連中は嘲笑っている。
だからかもしれない、私の中で何かが壊れたのは。
・・・・っ!!
私は思い切り拳を私の髪をつかむ仲間のむこうずねにかました。
その瞬間、私の髪を離し隙が出来たのを確認して、私は急所に容赦なく拳を入れた。
相手はそのまま気絶して、地面に倒れた。
私はそのままハルを庇うようにして、立ちはだかる。
「私を痛めつけるのは別に構わない。
でも、ハルに手を出したら・・・容赦しないよ」
「な、なんだよ、カッコつけやがって!!」
「やるならさっさとかかって来いよ。
本当に容赦しないからな」
「あいつをボコボコにしろッ」
一斉に私に向かって襲い掛かってくる。
避けきれなくて攻撃されたりするけど、ハルを守るために必死でこちらからも攻撃をする。
宣言通り、私は一切容赦なんかしなかったから少しずつ地面へと倒れていく。
急所なんて隙さえあれば簡単に狙えるんだよ・・・!
息を切らしながら、私も攻撃をしたりかわしたり。
無傷で守り抜くなんてとても出来ないけど、このくらいどうってことない。
もう何分間こうしているのだろう。
気がつけば、私達の周囲にはバタバタと連中が倒れている。
私も腕や足に負った傷が痛くて、その場に座り込んだ。
思っていたよりも大きなけがが無くて、内心ほっとしていた。
「ハル・・・ごめん、私のせいで。
絶対、絶対弁償するから」
「ううん、大丈夫です。
それよりもさき・・・すごいケガですよ・・。
今手当てを・・・っ」
「私の事は大丈夫だよ、こんなのすぐに治るって。
ハルが無事でよかった・・・」
私が笑みを浮かべながら言うと、ハルが今にも泣きそうな表情をした。
私なんかの為にそんな涙を浮かべてくれるなんて・・・。
今までそんなこと一度もなかったから、何だか変な感じがする。
でも、嫌な気持なんかどこにもなくて、素直に嬉しいと思った。
私の為に泣いてくれる人なんていなかったし、こんなに心配してくれる人もいなかった。
何だろう、この温かい気持ちは。
なんだかんだ言いつつ、ハルはバッグから救急セットを取り出して私の傷の手当てをしてくれている。
その手つきはとても丁寧で優しいものだった。
そう言えば、こんな風に優しく触れられた事も無かった気がするな。
「痛くないですか?」
「うん、へーき!
ケガするのはいつもの事だからさ」
私は笑いながら言った。
そう、こんなの日常茶飯事だから問題ない。
私が心配ないよ、と言って笑ってもハルは不安そうな表情をしている。
そんなに心配させてしまったのだろうか・・・気をつけなくちゃ。
ハルが何かを言おうとしていたが、口ごもってしまった。
何だろう、なんて言おうとしたのかな・・・?