髪を黒く染めて服装も少し直して、いよいよ今日が面接日。
ハルに言われた通り、口調には気を付けるようにしなきゃ。
時間が近づいてきて、私は余裕を持って家を出た。
ハルに約束の時間10分前には訪ねる様にって言われたから、早めに出てきた。
面接場所まではチャリで20分くらいの場所。
チャリを漕いで面接場所へと向かっていくと、土手の方から何やら声が聞こえた。
何かと思い見てみると、はな達が馬鹿騒ぎをしているのが見えた。
関わらないように、私は素早くチャリで通り過ぎていく。
到着して、私はお店の脇にチャリを止めて店内へと入った。
「すみません、16時から面接予定で参りました神楽と申します」
「はい、こちらでお待ちください」
そう言われて、奥の席へと案内される。
参りましたなんて初めて口にしたな・・・申しますっていう単語もそうだ。
店内を見てみると、メニューが沢山貼られていて駄菓子屋のような雰囲気だった。
小奇麗でお好み焼きは客が自分たちで作るようになっている。
つまり、オーダーを取って準備するのが仕事なんだ。
いいな、この雰囲気。
小さい頃、お好み焼きが好きでよく食べていたっけ。
何食べたい?と聞かれてお好み焼き!と即答していたことを思い出す。
人の気配を感じて、私は椅子から立ち上がった。
「こんにちは、面接を担当する上原です。
本日は宜しくお願い致します」
「は、はい、よろしくお願い致します」
こんなに緊張したのは、いつぶりだろう。
声が裏返ったりしないか心配だし、声が震えてしまったらどうしよう。
使い慣れない話し方だから、なおさら神経が過敏になってしまっている。
こんながちがち状態で、私、ちゃんと受け答えできるのかな。
そんな私を見て上原さんが笑っている。
何、もしかして何かおかしかった?
「そんなに緊張しなくてもいいよ。
もっとリラックスして」
「は、はいっ」
リラックスなんか出来るわけがない。
何を聞かれるのか、大体ハルから教えてもらってその答えもバッチリ考えてある。
だけど、うまく言えるのかそれが分からない。
私は履歴書を渡して、上原さんが真面目な表情をしながら確認している。
志望動機は書いても聞かれるから、答えられるようにした方がいいとハルが言っていた。
馬鹿正直に動機を書けば、不採用にされてしまう事も教えてもらった。
だから、当たり障りのないことを書いたつもりだ。
「まるで模範解答みたいだな。
動機を教えてもらってもいいかい?」
私はそう聞かれて黙ってしまった。
一体どこまで話していいのか分からない。
本当の事を話せば、きっと不採用にされてしまう。
それだけは何としても避けたい。
だからといって、嘘をつくのはやっぱり嫌だ。
私は意を決して、まっすぐ上原さんの顔を見た。
「私、早く一人暮らしがしたいんです。
早く自立して今の家を出たいと考えているんです。
それに、小さい頃からお好み焼きが好きだったから・・・いいなって。
・・じゃなくて、いいなと思いまして!」
「ははっ、いいよ、そんな無理して話さなくても。
神楽さんは、早く自立するためにここを選んでくれたんだね。
お好み焼きが好きなのかい?」
「はい、好きです!」
私がそういうと、上原さんは楽しそうに笑っていた。
私、何かおかしい事でも言ったかな?
渡した履歴書を見て、上原さんはそっと微笑みを浮かべた。
・・・・?
あ、もしかして字が汚いから笑われたのかな?
ハルに言われて、なるべくきれいな字で書いたつもりだったんだけど・・・。
「君の気持ちはよく伝わってきた。
でも不良がアルバイトするなんて、なんか珍しいね」
「私のことを、知っているんですか?」
「ああ、よくその土手で集まって悪さをしていたのを見かけていたから。
だが、君はほとんど他人に手を出さず、一緒に居るだけだったな」
上原さんにそう言われて、私は固まってしまった。
不良だって知られてしまったら、採用してもらえないんじゃ・・・。
なんて絶望的な仕打ち・・・。
思わず私はその場でシュンとしてしまった。
次探さなきゃいけないか・・・他に良いところなんてあるのかなぁ。
「よし、採用しよう」
「そうですか・・・お忙しい中あり・・え?
採用していただけるんですか?
・・・ありがとうございます!」
私は一瞬、状況が読み込めなかったが採用の言葉を聞いて我に返った。
採用・・・してもらえたんだ・・・。
喜びもつかの間。
いきなり大勢の客がやってきて、陰から覗いてみるとサトコ達だった。
一体何しに来たの?
まさか、私への嫌がらせのつもり?
あれで完璧に手を切ったはずじゃなかったのか?
「よう、さき、来てやったぞ!
さっさと材料持って来いよ!」
「支払はツケでヨロシク~!」
何のつもり・・・支払はツケ?
つまり、お金を払う気はないっていう事なの?
そんなの営業妨害じゃないか!
私はそのままテーブルへと向かおうとした時、上原さんに制された。
え・・・?
上原さんが私を庇うかのように、前に出てくる。
「悪いが、金を払えない客には提供することは出来ない」
「なんだと、クソじじい!!
黙って出してればいいんだよ!」
「無理なものは無理なんだ。
さっさと帰ってくれ、営業妨害になる」
上原さんはしれっと言い返す。
何、上原さん、結構余裕そう。
サトコ達は頭に来たのか、暴力を振るおうとしてきた。
このままではいけない、そう思い私はその場から動き出した。
サトコの腕を思い切り掴み、キッと睨み付ける。
すぐそうやって暴力を振るおうとする。
「悪いのは自分達じゃないか。
私へ嫌がらせをするのはいいよ、でも周囲を巻き込むのは筋違いだ。
さっさと帰ってくれないか、それともまた私に遊んでほしいわけ?」
「こんな店、つぶしてやるよッ!!」
そう言って、サトコが手にしていた金属バットでガラスを割ったり、テーブルを叩き付けて壊していく。
上原さんを見ると、恐ろしく冷戦沈着で驚いた。
全く動じることなく、サトコ達を見ているだけ。
その眼は冷たくてあきれたような感じだった。
何だか慣れていると言わんばかりの表情。
私がいくら注意したところで、その声もむなしくバットを振り回している。
外からパトカーの音が聞こえてきてずらかろうとした連中を見た、上原さんがサトコの腕を思い切り掴んだ。
「好き勝手暴れて逃げるつもりじゃないだろうな?
お前たちは、そんなに卑怯で意気地なしの臆病者だったのか?
まぁ、不良ごっこしているくらいだから仕方ないかもしれないがな」
「その女だって不良じゃねーか!!」
「彼女はもう関係を切ったんだろう?
真面目に生きようとしているんだから、邪魔をするな。
めちゃくちゃにするのは、自分の人生だけでいいだろう?」
上原さん・・・私がグループから抜けたこと、どうして知っているの?
もしかして、あの日公園での出来事を見えていたのかな?
警察官がやってきて、サトコを連れて行く。
器物損壊罪で連れて行かれるサトコ。
急に警察には行きたくないと、弱々しい発言を繰り返す。
行きたくないなんて自分勝手すぎる、これだけ破壊しておきながら何が嫌なんだ。
警察に連行されていき、私は上原さんに謝った。
「本当にごめんなさい、私なんかのせいで・・・!
必ず私が弁償しますので、本当にごめんなさい!!」
「君は関係ないんだ、悪いのは向こうなんだから気にしなくていいんだ。
弁償はあの子にしてもらうから、神楽さんは何も責任を感じなくてもいい」
上原さんがそう言って、私の頭をぽんぽんと叩く。
でも、私がここに来てしまったからこうなったんじゃないのかな・・・。
ちゃんと白黒はっきりつけないと、何度でもここにやってきてしまう。
なんとかしなきゃいけない、私が・・・。