バタバタ外がうるさくて、私は目を覚ました。
何て言うか、いつもこんな感じで目が覚めるからゆっくり眠れない。
その後、私は二度寝をして起きた時にはすでにお昼を過ぎた頃だった。
そう、私の一日はいつもこんな感じで始まる。
あくびをしながらベッドからおりて、カーテンを開けると外は曇っていた。
何だか嫌な天気だな・・・。
そう思いながら私は適当にご飯を食べて着替えて、外へと出て行った。
外は心地よい風が吹いていて、このまま風に吹かれていたいくらいだった。
近くのコンビニへ行くと、制服を着た高校生達の姿を見た。
コンビニの前でがやがや騒いで、行きかう人たちの冷たい視線が集まっている。
ああいうやつらがいるから、最近の若い連中はって言われるんだよな。
まぁ、今の私も不良だから悪いイメージを持たれているわけだけどさ。
「ってか、あいつ不登校のくせにうろうろしてるぜ」
「家から出てくるなっての!」
連中が私を見て笑っている。
喧嘩を売っているのかと思ったが、ここで暴れたら面倒なことになりかねない。
親のお金で高校に通っている連中に、悪く言われたくない。
関わるだけ面倒だから、私はそのまま無視をして通り過ぎた。
何だかあいつらムカつくな・・・人を馬鹿にしやがって!
むしゃくしゃして、私はあるCDショップに入りあたりを見渡した。
人は少ないし、店員も違う事をしているから店内を見ている様子もない。
ちょうど欲しいものがあったんだよね。
一つくらい盗んだって、誰もわからないに決まっている。
私は周囲を確認してから、ほしいCDを一枚手に取り懐に隠した。
大丈夫、誰にも見られていない。
なんだ、このお店も楽勝じゃん。
そう思いながらお店の出入り口へ向かった時だった。
「君、ちょっと待ちなさい」
嫌な予感がした。
こんな声のかけられ方、誰だって嫌な予感しかしないだろう、
後ろを振り向くと、店員さんが立っていて怒った表情で私を見ていた。
あー・・・これ、ばれたな。
はぁ・・・ホントついてないよな・・・。
私はそのまま事務所へと連れて行かれて、椅子に座るよう言われた。
椅子に座って盗ったものをテーブルに出した。
目の前には店長が座っていて、後から警察官が二人来た。
しかも今回はまた警察官が来てしまった。
もうこれで何度目だろうか・・・多すぎて覚えていない。
「君、今回が初めてじゃないよな?
以前にも違う店で万引きして、注意されたのに懲りないな」
「何回やれば気が済むんだ!」
警察官が私に向かって、大声で怒る。
もう何度こうして怒られただろう・・・それも覚えていない。
何回やれば気が済むんだ、なんて聞かれても困る。
だって、憂さ晴らしでしていることだから、あと何回すれば気が済むのか分かるわけない。
何度もその場で反省させられて謝ったって意味がない。
私はただ黙ったまま、周囲をじっと眺める。
いいよなぁ、この人たちは・・・ちゃんと働いて幸せに過ごしているんだからさ。
私の気持ちなんてわかるわけがないし、分かってもらいたいとさえ思わないよ、もう。
「もうさ、捕まえたいんならさっさと捕まえれば?
どうせ私はいくら注意されたって、またやるんだからさ」
もう何もかもがどうでもよくなる。
私の人生って結局この程度で、何も変わらないっていうか悪くなっていく一方なんだよね。
幸せになりたいなんて望んじゃいけないみたいにさ。
警察官たちは一瞬驚愕して、すぐに真剣な表情になった。
君ならやめることが出来る、これから更生していけばいいんだ、なんていうけれど。
そうやって言うのは誰にだって出来るんだよ、口で言うくらいならね。
本当はただの点数稼ぎだろ?
そうやってもっともらしい御託並べてさ、まるで偽善者じゃないか。
だから嫌いなんだよ、警察って。
私はため息をつきながら椅子に座ったまま。
すると、店長が口を開いた。
「親御さんに連絡して、代金を払ってもらうから」
「勝手にすればいいだろうが。
結局、自分達で何も出来ないとそうやって親を使うんだよな。
馬鹿な奴らだ、全く」
私は嘲笑しながら言った。
警察はいつだってこっちの話を聞こうとしない。
一方的に悪いと決めつけて、自分の正義感を振りかざしてくるんだ。
そりゃあ私が悪いに決まっている、でもさ、話くらい聞いてくれてもいいんじゃないか?
警察官が親に連絡を入れている。
こうして親を呼び出されるのも、今に始まったことじゃない。
普通なら連絡を拒んだり嫌がったりするんだろうけど、私は別に嫌じゃない。
だって、今の私を生み出したのは親のせいでもあるんだから。
これは私のささやかな復讐でもある。
「君は自分が悪い事しているってわかっているのか?」
「それくらいわかってるよ」
私はため息をつきながら言い返す。
自分が悪いことくらいわかっているつもりだ。
でもさ、自分じゃどうにもできないんだよ、コントロールできない。
感情のまま動くことしか出来ないんだ。
しばらくして、母親が事務所にやってきた。
母親はただただ平謝り。
私は悪びれる様子もなく、形だけの謝罪をするだけ。
全く、嫌な日だな・・・今日は。
捕まるのかと思ったが、今回も厳重注意で帰らされた。
いっそのこと、捕まえてもらった方が早かったりしてね・・・。
「お兄ちゃんは一度も悪いことしてないのに。
どうしてあんたはこんなダメな子になっちゃったのかしらね!
お兄ちゃんと違ってあんたはいつもいつも・・・!」
ほらね、口を開けばまたそうやって比較されるんだ。
せめてもの救いは、父親がまともだっていう事。
父親は一度も私と兄を比較なんてしたことが無いし、私がこうなってしまった理由にもなんとなく気が付いている様子。
だから、父親には迷惑をかけないようにしているが、不良だという時点ですでに迷惑かけているんじゃないかと思う。
何が正しくて何が間違っているのか、自分にはよくわからなくて今に至っている。
私がそう考えている間にも、母親はまだ文句を言っている。
頭にきて私はその場で足を止める。
「私をこんな風にしたのは、お前だろ?
いつもいつもそうやって比較ばっかりして、何様のつもり?
いい加減、うざいんだけど!!」
「さき!!」
「一人で帰れば、私は顔すら見たくないんだから!」
私はそう言って、その場に母親を置き去りにして去った。
口を開けばいつもあんな感じだから、話したくないんだよ。
どうして比べたがるのか分からない。
どうせ私はダメなやつだよ、どうしようもないくらいにね。
だけど、こんな私にしたのは母親じゃないか。
私ばっかり悪いって言われているみたいで、余計に腹が立つ。
いつかこんな生活から解放されたいな・・・。
私だって私の自由がある。
いつまでもこんな窮屈な生活なんかしたくない。
少なくとも早くあの家から出ていきたい。
そうすれば、二度と顔なんか見なくて済むしごちゃごちゃ言われなくて済む。
「あっ・・・」
通りかかった先には、不動産屋があり窓ガラスには物件の紙が貼られていた。
どの物件も家賃が少し高いなぁ・・・家を借りるのってこんなに大変なんだ。
私達が住んでいる家もこのくらいの値段するのかな・・・。
そう考えると、あの家もすごいのかもしれない。
私は今高校生だし、アルバイトをしてお金を貯めれば無理な話じゃないかもしれない。
アルバイトなんてしたことないけど、やってみるかな・・・。
続くかどうかは別にして、まずは探すことから始めた方がいいかもしれない。
出来るだけ時給がいい場所の方が望ましい。
そう言えば、アルバイト雑誌ってどこでもらうものなんだろうか。
その時、サトコが通りかかった。
「あれ、さきじゃん!
何してんだよ、こんなところで」
「あのさ、サトコってアルバイトしてたよね?
バイトってどうやってするものなの?」
「バイト探してたのか!
だったら、これあげるから探せばいいじゃん。
飲食店は時給安い割に働かされるから、やめた方がいいよ~」
私はサトコからアルバイト雑誌を受け取った。
開いて確認していくと、ほとんど飲食店の募集だった。
何が私に出来るんだろう・・・色々探していくと、ある募集に目が留まった。
お好み焼き屋かぁ・・・なんか楽しそう!
私は早速連絡をして、面接日を決めてもらうように話を通した。