毎日勉強を積み重ねて、いよいよ今日はテストだ。
今までハルに教わってちゃんと勉強してきたから、たぶん大丈夫。
難しい問題は出ないとハルも担任も言っていたから大丈夫だとは思うけど・・・油断は禁物だよね?
チャイムが鳴って、テスト用紙が前から回されてくる。
裏面にしたまま回ってきて、私も一枚受け取って後ろへ回した。
「始めて下さい」
そう言われて、テスト用紙をひっくり返した。
問題を確認すると、ほとんどハルから教わった部分だった。
こんなラッキーなことってあるの?
私は習った問題を解いて、何度か見直しをしていく。
ケアレスミスが一番良くないとハルに言われたのを思い出して、見返しをした。
何度か見直したけど、特に問題はなさそうだった。
ちらりと隣を見てみると、マコトさんが険しい表情をしながら固まっていた。
解けない問題があるのかもしれない。
チャイムが鳴って、いっきに緊張感がなくなっていった。
「はい、そこまで!
後ろから回収してきて下さい」
担任がそういうと、後ろから回収し始めた。
こんな調子で5教科のテストが進められていく。
一通りハルから教わっていたから、何とか空欄だけは避けることが出来た。
解答欄は出来るだけすべて埋めるようにって言われたから。
初めてのテストにしては、結構いい調子だったような気がする。
一通りのテストを終えて、私は一息ついた。
「マコトさん、テストどうでした?」
「どうって・・・サイアクだよー!
特に数学なんて、ほとんど白紙みたいなもん・・・」
マコトさん、本当に数学が苦手なんだな・・・。
私も得意なわけじゃないけど、頑張れたからよかった。
マコトさん、いつも赤点とか言ってたけど大丈夫なのかな?
追試とかやるのかな、通信制高校って。
詳しいことが分からないけど、単位に響くんじゃないかな・・・。
すると、ガバッとマコトさんが起きて私を見た。
「さき、もうすぐバレーの試合なんだけど!
攻撃の練習、しっかりしよっかー」
「私よりマコトさんが攻撃をした方・・・」
「ダーメ、さきに決めたんだから変更はしなーいの」
実は、もうすぐバレー部の試合があるのだ。
全く知らなかったんだけど、私の通っているバレー部は数多くの実績を残しているみたい。
何度かベスト16に入っていて、毎回準優勝を果たしているのだとか。
まだ優勝したことが無いから、私に期待しているとマコトさんに言われてしまった。
おまけに担任まで私に期待をしている。
気が重たいけど、その期待に応えられるようなことをしたい。
私達は体育館へ行き、早速練習をし始めた。
もちろん、他の皆も練習を頑張っている。
「さき、行ったよ!!」
「・・っ!」
マコトさんがセッターとしての役割を果たす。
その打ち上げたボールを、私が相手チームへスマッシュのように打ち込まなきゃいけない。
ボールをちゃんとよく見て、相手のコートも確認しなければいけない。
とても重要なポジションだからこそ、しっかり役目を果たさなきゃいけない・・・!
私は助走をつけて跳躍して、右手を大きく振り上げる。
マコトさんに前もって指示された場所へと向かって相手のコートに、思い切りボールを落とした。
―ダンッ!!
私がボールを打ち込んだ場所は、マコトさんに指示された場所ど真ん中だった。
私・・・今正確にボールを打ち込むことが出来たんだ・・・!
「すごいじゃん、さき!!
ホントこの短期間で腕あげたよね!」
「神楽ちゃん、すごーい!」
皆が褒めてくれるのは嬉しいけど、何だか恥ずかしかった。
私は特技も無ければ趣味もなかったから、何も向いていないんじゃないかと思っていた。
空手くらいしか取り柄が無いと思っていたんだけど、運動神経がいいのかな?
それから何度も練習を繰り返していくたびに、私のコントロールが良くなっていった。
物覚えがいいと周りから言われたけど、そうなのかな?
身体で覚えるのが早いだけで、知識を覚えるのは遅いと思う。
「さき、ホントすごいよ!
試合するのが楽しみだなー」
「私は緊張していますよ・・・」
試合までもう日にちが無いから、みんな頑張って練習をしている。
私も負けずに頑張らないといけないな!
しばらく練習をしてから、解散して私はある場所へと向かった。
向かった先は、ハルのお家。
前から約束していたから、急いで向かっていく。
チャリを漕いで家の前に着いて、チャリを邪魔にならない場所へと置いて髪を直す。
ぼさぼさでは良くないと思って、慌てて直していく。
すると、笑い声が聞こえてきた。
「さき、身だしなみを気にしてくれたんですね」
声が聞こえて、その方向を見ると二階の窓からハルがこちらを見ていた。
いつの間にあんな場所から・・・もしかしてずっと見られていたのかな?
そう思うと何だか恥ずかしくなって、むっとしてハルを見たらもういなかった。
あ、あれ・・・今度はいなくなってる!
インターフォンを鳴らそうとした時、ハルが出て来て迎え入れてくれた。
ハルは楽しそうに笑いながら私を見ている。
もう、そんなに笑う事ないじゃんかっ!
ハルの部屋に案内されて、私はソファに座った。
「さき、高校はどうですか?
新しい友達が出来たみたいでよかったですね」
「うん、今度ハルにも紹介するね。
私達よりも年上なんだけど、すごく話しやすくていい人なんだ。
ハルもきっとすぐに仲良くなれると思うよ」
「ありがとう、楽しみにしていますね」
マコトさんは誰とでも打ち解けられるから、ハルも仲良くなれるはず。
ハルも人見知りではないようだから、会わせても大丈夫だと思う。
私は、もうすぐバレー部の試合があることをハルに話した。
せっかく出来た友達だから、ぜひ見に来てもらいたいなって思ったんだ。
そう告げると、ハルは喜んで行くと言ってくれた。
通信制高校ってもっと薄っぺらいと言うか、問題を抱えている人達が通う所だと思っていた。
行事とか部活なんかなくて、ただ出された課題をこなしてそれをスクーリングで出して、卒業単位を取得して終わりなのかと思っていた。
でも、そんなんじゃなかったんだ。
「通信制高校にも部活があるなんて、不思議な感じですね」
「うん、私もびっくりしてるところなんだ。
ハルが行ってる高校と何ら変わりがないのかもしれないね」
「でも、さき何だかすごく楽しそうです」
私は笑顔で楽しいよ、と言い返した。
高校がこんなに楽しいなんて、今まで一度も思ったことが無かった。
今までいじめられたりして、もういいやって思ってたけど、諦めてしまうのはもったいない。
最初はあまり気のりしていなかった通信制高校。
それでも、実際に通ってみると楽しくて、スクーリングが待ち遠しくなった。
課題を進めるのも苦じゃないし、バイトだって順調に進んでいる。
部活動も始めて、新しい友達を作ることも出来て、いいこと尽くしだ。
他の人達がどうなのかは知らないけど、私にとってはすごく楽しくて充実している。
「さき、お父様とか上原さんも誘ってあげたら喜ぶかもしれませんよ。
お連れしてもいいですか?」
「うん、恥ずかしいけどいいよ」
「みんなでさきを応援しに行きますから!」
皆が応援しに来てくれるから、いいところ見せられるといいな。
そのためにも、残された時間を上手に使わなきゃ!
見に来て良かったって言ってもらえるように。
皆がいい試合だったと言えるように、練習を続けていきたい。
私がやる気になっていると、ハルが私を見て笑った。
「さき、もし追いつめられても冷静になるんですよ。
自分に出来ることや何か見落としている事は無いか、色々な可能性を考えてみて下さい。
さきは窮地に陥ってしまった時、少し混乱してしまうみたいだから」
「ありがとう、そうなった時はハルの言葉を思い出すようにする」
そう、私は何かが急に起きてしまった時すぐに混乱してしまう。
ハルは本当に私の性格をよく理解してくれている。
感情的にならず冷静に考えるようにしないと、試合に影響してきてしまう。
皆の足を引っ張らないように、前もってみんなで作戦を考えておくのがいいかもしれないな・・・。
私は計画を立てるよう、マコトさんに連絡を入れた。
メールで伝えると、すぐに返信が来て作戦を立てるから集まって欲しいとの事。
私はハルと別れてから、マコトさん達の元へとチャリで向かう事にした。