そして、あれから練習を重ねていよいよ試合当日になった。
皆は待ち遠しかったと言っているけど、私は初めてだから待ち遠しいとは言えなかった。
緊張してしまって、わずかに両手が震えている。
怖い・・・大勢見に来ているから、そのプレッシャーに負けてしまいそう。
ケンカする時はどうってことないのにね・・・。
通信制高校の部活の試合だから、正直こんなに集まるなんて思っていなかった。
あの中に、ハルやお父さん達の姿もあるかと思うと余計緊張してしまう。
「今日は自分たちが納得できる試合をしよう!
優勝にこだわらないで、それぞれ力を発揮するように!」
「はい!!」
「さき、周りの事なんて気にしなくていい。
練習で培った力を発揮することだけ考えればいいからな!」
「は、はいっ」
皆で輪になって手を重ねて気合を入れる。
そして、コートへと走っていく。
周りを気にするなって言われたけど、視界に入ってしまって緊張してしまう。
気にしないなんて、やっぱり無理だよ・・・!
相手からのサーブが打ち込まれて、仲間がボールを拾った。
続いてマコトさんがそのボールを高く上げる。
私が相手のコートに入れなきゃいけないんだ・・・!
強くボールを打ち込んだつもりが、私の打ったボールはファールになってしまった。
うぅ・・・だめだ、緊張して無駄に力が入ってしまう。
「さき、ドンマイ!
次から狙っていこう!」
「・・・はい!」
その後、仲間が失敗してしまったりしてますます点数が開いてしまった。
25点取ったら1セットカウントされるが、先にその1セットを相手にとられてしまっている。
3セット制だからあと2セット取られたら負けてしまう。
でも、まだチャンスはあるから頑張りたい。
相手がとても強くて、私達のチームは押されている状態で観客達も相手チームを応援している人が増えた。
再びボールを取った仲間がマコトさんへ繋いで、マコトさんが私へと繋いだ。
私は跳躍してボールに向かって手を伸ばした。
しかし、相手にブロックされてしまい打ち込むことが出来なかった。
コートチェンジの際、私達は作戦を見直した。
「すみません、私全然アタックできなくて・・・」
「さきのせいじゃない。
もっとあたしたちがチーム力をあげないといけないのかも。
あと、もっとボールを拾うようにしよう!」
「オッケー!」
その後も引き続きゲームを続けていくが、なかなか練習の力を出すことが出来なかった。
気が付けば、相手との点差は相手が1セット獲得し10点、私達はセットなし20点。
先に2セット取ったところで試合が終わってしまう。
このままでは、初戦で敗退してしまう事になる。
寄りにもよって、昨年優勝した高校と当たってしまったのが悪かったのかも。
仲間達も落ち込み始めて、それがプレーに影響してしまっている。
これじゃあ、ますます悪くなっていく一方だ。
観客達も何だかざわざわして、気が付けば最初よりも減っていた。
「あの対戦校って毎回準優勝してるんじゃないの?
なんかさ、弱くない?」
「仕方ないんじゃない?
だって相手は優勝校なんだからさ、敵うわけないって!」
観客達の声が聞こえてくる。
相手が優勝校だから負けても仕方ないって?
その瞬間、ハルに言われたことを思い出した。
冷静に考えて可能性を見出す、私は相手コートをじっくり見た。
よく見ると前はブロックして完璧だし、中央もばっちり守られている。
しかし、両脇のエンドラインに隙があることに気が付いた。
練習の時、マコトさんに言われたっけ・・・ライン上はセーフになるんだよって。
ローテーションをして、私は前から後ろになった。
相手が強いサーブを打ってきて、私はそのボールを見事に受け取って打ち上げた。
「・・・マコトさんっ!」
そのボールをマコトさんが高く打ち上げる。
私はその場から走り始めて、跳躍して右手を大きく振り上げた。
左側エンドライン上を狙うため、私は全神経を集中させ打ち放つ。
―ダンッ!!
そのボールは見事エンドライン上に落ち、点数にカウントされた。
やった・・・点数が入った・・・!
帰り始めていた観客達が、席へと戻っていくのが見えた。
「さき・・・やったじゃん!
急にどうしたんだよー!」
「皆さんこそ、まだ緊張してるんじゃないですか?
肩慣らしはもう十分だと思いますよ?」
「神楽、言ったなー!」
私がそういうと、メンバーたちが笑い始めた。
笑う事で、みんなの気分も少しずつ回復してきたようで、私達の快進撃が始まった。
最初に比べてみんなよく動くようになったし、私のコントロールも正確になってきた。
相手チームの方の身長が高いのに、私のアタックが次々に決まっていく。
余裕そうにしていた相手チームも顔色が変わってきた、
そして、いつの間にか同点になっていた。
最後の作戦会議を始める。
「笑っても泣いても、これが最後だ。
諦めずに最後まで行こう!!」
そう意気込んで、私達はコートへと向かっていく。
すると、向こうがメンバーを変えてきてその人物がサーブを打つことになった。
どこに売ってくるのか分からないが、絶対に取らなきゃ!
相手がサーブを打ってきたが、カーブが入っていて取るのが難しく感じた。
狙ってきたのは、エンドラインの隅っこ。
ギリギリインしている場所だったから、何が何でも取らなければいけない!
私は慌てて手を伸ばし、ボールをすかさず拾い上げた。
その反動で私は転んでしまった。
「ナイス、さき!!」
そう言って、マコトさんが走り出し私がつなげたボールを必死にトスした。
何が何でもつなげないとだめだ・・・!
私は起き上がり、すぐボールの方へと走り出し跳躍した。
今までよりも跳躍して、再び右手を思い切り振り上げた。
相手コートを確認すると、ど真ん中に隙が出来ていたから、私はブロックを超えてど真ん中へボールを打ち落とす。
すかさず相手がボールを拾いダメかと思ったが、その打たれたボールはそのまま壁に当たり、私達に点数が入った。
コールが鳴り、私はその場で固まってしまった。
え・・・もしかして、勝ったの?
「さき、マジでナイスファイトだよ!!
あんな強い高校に勝つなんて、ホント何者なんだよー!」
「神楽のおかげだよ!!」
「そ、そんな、私はただ夢中で・・・」
本当に夢中だった。
勝ち負けとかじゃなくて、試合そのものに夢中で周囲が見えていなかった。
ちゃんと挨拶をして、私達は次の試合まで休むことにした。
皆がまだ興奮しているのを見て、私は思わず笑ってしまった。
まだ初戦に勝っただけなのに、まるで優勝したみたいな感じだ。
でも、私もすごく嬉しく思っている。
「さき、すごかったですね!!
あんなにバレーが上手だったんですか?」
「ううん、マコトさん達に鍛えてもらったからだよ」
「さきちゃん、いい表情してたぞ」
「ああ、お前があそこまで頑張る姿初めて見た。
前よりずっと楽しそうじゃないか」
皆がそう言ってくれて、素直に嬉しかった。
私も我ながら頑張ったような気がする。
身体を動かしたり、友達とこんなふうに嬉しさを分かち合えるのもいいなって思う。
今までは分かち合うと言うよりも、価値観とかを押し付けられていたような感じだったから。
その後も試合を続けていき、初戦よりは手ごわい高校があまりなかったから、気が付いたら準優勝ではなくて優勝していた。
初めての表彰にマコトさんと私がステージに上がった。
悪いような気がしたけど、みんなが私に受け取って欲しいと言ったから、受け取ることにしたが・・・緊張した!
「君が、神楽さきさんかな?」
急にある男性に声をかけられて私は固まってしまった。
この男性、どこかで見たことあるような気がする・・・でも誰だかわからない。
私が黙っていると、男性が優しく微笑みを浮かべた。
誰だったっけ・・・どこで見たんだっけ・・・?
すると、男性が胸ポケットから名刺を取り出した。
その名刺を見て、私は男性を二度見して驚いてしまった・・・だって彼は、プロバレーボール選手をコーチしている人だったから。
一体、そんな人が私に何の用なんだろ・・・?