あれから2年後。
私もハルもあっという間に高校3年生になり、卒業式を間近に控えていた。
ハルの方が卒業する日にちが少しだけ早かった。
本当は見に行きたかったけど、気まずくて行けなかった。
仕方がなく、私はハルと外で待ち合わせをすることにした。
やっぱり、中退したから行きにくいよね。
私は頃合いを見て、少し離れたカフェに向かった。
時間より早くついてしまって、私は中でカフェオレを頼んで飲んでいた。
ハル、早く来ないかなぁ。
「お待たせしました、さき!」
「ううん、全然待ってないよ。
卒業式、どうだった?」
ハルが慌ててやってきた。
私はそんなに焦らなくても大丈夫、と言って笑った。
でも、その心遣いがすごく嬉しかった。
ハルは手に卒業証書の黒い筒を持っていた。
これが卒業するともらえるんだ・・・私ももう少ししたらもらえるのかな?
卒業式について何度も質問していると、ハルは笑った。
「さきも、もうすぐじゃないですか。
どんな格好で卒業式に出るんですか?」
「あ・・・何も考えてなかった!
私服だと何だか変わりばえしなくて、つまんないよね?」
「それなら私がコーディネートしてあげましょうか?」
「えぇっ!?
い、いいよ、ハルの事だから私に高いの着せようとか思ってんじゃ・・・」
「たまにはいいじゃないですか」
ハルが笑いながら言う。
確かに卒業式くらい良いかもしれないけど、そんなの申し訳ない。
だって、私はハルに何もしてあげられてないから。
しかし、ハルはもう何か考えているみたいだった。
だけど、ずっと気になっていることが一つだけある。
「ハル、今後どうするの?」
「私は大学へ進学することにしたんですよ。
栄養とか調理とか、そういうことを学べる場所を選んだんです」
意外だった・・・もっと有名大学に進学したのだと思っていたから。
何て言うか、いい大学を出て将来は立派な職業に就くんだと思ってた。
私がきょとんとしていると、ハルが笑って私を見た。
・・・・?
料理とか栄養について学ぶっていう事は、今後そういった方向へ行くのかな。
皆それぞれ夢がある、みんなの夢が叶うといいなって思う。
「ハルの夢、叶うといいね」
「何を言っているんですか?
将来の夢は、一緒にお店を持つことじゃないですか」
・・・・え?
将来の夢は私と一緒にお店を持つこと?
でも、そんな約束なんてしてないような気がするんだけど・・・。
一緒にアイデアを出したけど、もしかして、ハルは一緒に目指してくれるの?
私が分からずそのままでいると、ハルが何枚かの紙を取り出した。
カラープリントされた紙を何枚も。
手に取るように言われて確認すると、それは・・・。
「これって・・・お店のイメージ?
どうして・・・」
「私もさきと一緒にお店をやってみたいと思ったんです。
誰かを笑顔にさせる、大人でも楽しめるようなことを私もしたいです。
だから、一緒にお店を持ちましょう!」
「・・・」
「駄目ですか?」
そんなわけない。
むしろ、私と一緒でいいのだろうか?
お店を持ちたいって言ったけど、私は何も詳しいことがわかっていない。
本当に素人の私についてきてくれるの?
ハルは目を輝かせながら、私を見て笑っている。
こんなに信頼されたことなんてないから、私はうまく笑えなかった。
「そんなわけないじゃん!
ハルがいてくれて、すごく頼もしいし心強いよ」
「良かったです!」
一人じゃないんだ、私は。
あの日全て壊れてしまって、もう二度と戻らないと思っていた。
修復できないくらい、何もかも壊れてしまったのではないかと思ってた。
だけど、私の運命はまだ壊れていなかった。
壊れそうになりかけていたのを、ハルが取り繕ってくれた。
私もハルにつられて笑顔を見せた。
そして、ハルを連れて私の自宅へ向かっていく。
家には誰も居なかったから、リビングへと案内して飲み物を出した。
「ごめんね、大したお構いもしないで」
「さき、話し方変わりましたね。
まるで別人みたい」
「そ、そうかな?
ハルこそ、その丁寧な話し方崩してみればいいのに」
「癖なんですよね。
今までこんな風に話せる友達なんて居なかったので。
こんなに仲良くなったのは、さきが初めてなんです」
ハルははにかみながら言う。
え・・・そんなの知らなかった。
高校に友達がいるんだとばかり思ってたけど、そうじゃなかったんだ・・・。
じゃあ、一人であんな高校に通い続けていたの?
私にとって、ちゃんとした友達がハルだったように。
ハルにとって初めてできた友達が私だったんだ。
通りでなんとなく、本当になんとなくだけど似ていると思った。
「初めてできた友達が不良だって、お母さん嫌がったでしょ・・・?」
「ううん、嫌がりませんでしたよ。
だってさきは不良になりきれていなかったんですから」
「えっ、私不良に見えなかったの?」
「うん、ちっとも。
ただ悪さをしているだけにしか見えませんでしたよ?」
・・・・そうだったんだ。
私は不良になりきっていたつもりだったんだけど・・・。
そうか・・・見えていなかったのか・・・それはそれで残念だ。
何をしても中途半端と言うか、向いていなかったのかな。
ただ悪いことをしているだけにしか見えなかったって。
「私のお母さん、以前さきのこと見かけているんですよ。
さき、昔私のことを助けてくれましたよね?
その時、お母さんも近くにいたみたいなんです」
「えぇっ!?」
どうしよう、暴力女だと思われたかな・・・?
あんな姿を見れば、誰だって驚くし友達になりたいなんて思わないよね・・・。
うぅ・・・よりにもよってハルのお母さんに見られていたなんて、サイアクだよ~!
どうしよ、顔向けなんてとても出来そうにない。
すると、ハルが笑って私の肩をポンとたたいた。
「お母さんがね、初めてできた友達が友達思いの子で良かったわねって。
彼女はきっとハルが変わるキッカケになる子だって言われたんです」
「私が・・ハルの変わるキッカケ?」
「うん、実際にね私はこんなに話せるようになったし、怖いものがなくなったんです。
さきと一緒に居ると私も頑張らなきゃって思いますし、最後まで諦めたらいけないなって」
ハルの役に立てていないんじゃないかって、ずっと思ってたけど・・・。
それは違っていたんだ・・・私もハルの変わるキッカケになれてたんだ。
そう思うと、何だか恥ずかしくなった。
何より、ハルのお母さんに拒絶されなくて良かったと安心した。
すると、お父さんが帰ってきた。
ハルを見て挨拶をし、カバンなどを置いて冷蔵庫からお茶を取り出す。
「お父さんはさ、どんなお店だったら行きたい?」
「なんだ急に?
うーん、特にないな・・・昔はよく駄菓子屋へ行っていたが」
駄菓子屋・・・確かに最近ではほとんど見かけない。
スーパーでもお菓子を買えるようになっているし、駄菓子屋は儲からないから。
だけど、お父さんたちのような人たちは子供の頃に駄菓子屋へ行っていたんだ。
お小遣いをもらって駄菓子屋へ行き、友達と遊びながら食べる。
駄菓子屋・・・お小遣い、子供に友達。
「そうか、再現すればいいのか!」
私は席をばっと立ちあがり、ひらめいた。
大人が童心に返れるようなお店、つまりそれは駄菓子屋さんだ!
私は、早速ハルに話して計画を立て始めた。
ハルはいいじゃないですか!と言って、ノートにアイデアを書き始めていく。
我ながらいいコンセプトを思いついたと思う。
もうすぐ私も通信制高校を卒業する。
時間が経つのは、本当にあっという間で短いものに感じた。
スクーリングも一度も休むことなく通ったし、バレー部としての役割も果たした。
高校生活に悔いはない、あとは前に進むだけ。